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夜明けの星 2-41(夏樹)

「おい、ナツ。まだ寝るのか~?」  夏樹はこめかみをグリグリと押されて、思わず呻いた。 「(いて)てて……なんすか隆さん。俺帰ってきたの明け方……」 「なんすか、じゃねぇよ。もう昼だぞ~?」 「ぅえ゛~~……」  もともと睡眠時間は短い方なのだが、久々の出張だったし、夜通し運転して帰って来たせいでだいぶ疲れていたらしい。  運転するのは嫌いじゃないが、普段あまり乗らないのでやはり神経を使う。  ……ん?昼? 「ヤバいっ!雪夜に薬っ……!」  朝の分、飲ませてないっ!!    夏樹は焦ってガバッと起き上がった。 「それなら、斎が朝起こしてとりあえず薬だけ飲ませておいたって言ってたぞ」 「え!?……はぁ~~~~~……良かった。ありがとうございます」  斎さん感謝~~~っ!  ほっとしてまたそのまま後ろに倒れこむ。  それを見た隆が苦笑しながら夏樹の頭をペシッと叩いた。 「こらこら、朝飯も食ってねぇんだし、そろそろ起きて食え!」 「ふぇ~い」 「雪ちゃんも起こしてこいよ~」 ***  夏樹は起き上がると、携帯で時間を確認して隣で寝ている雪夜の体調をチェックした。    熱はないな。  朝の薬を飲んだ後、また寝たのか……  っていうか、今朝って斎さんいつ入って来たんだ?全然気づかなかった……  そういや、さっきの隆さんも……あ~~~……うん、まぁ、いいや。深く考えるだけ無駄だな。 「雪夜~、お~い、おはよ~!」 「ん~~~……」  雪夜の頬を撫でながら声をかけると、雪夜が夏樹の手に顔を擦り付け、むにゃむにゃ言いながら微笑んだ。    くっ、可愛っ……じゃなくてっ! 「もうお昼だよ。ご飯食べよ~!」 「まだねみゅぃ~~……」  こりゃダメだな……  夏樹はひとまず自分の身支度を整えた。  雪夜の服を選びながら、また声をかける。 「あ、そうだ雪夜、隆さん来てるよ。昼飯も隆さんが作ってくれてるんじゃないか?」 「ぅ~~?たかししゃん…………へ?たかしさん?ごはん!」  ここに来てから、雪夜はすっかり隆の料理の虜だ。  夏樹や斎が作る料理もおいしいと言って食べてくれるが、やはり本職が作るものには敵わない。  たまにしか来ない隆の手料理を雪夜が心待ちにしていることにはもう気づいていた。  少し嫉妬……でも、隆は夏樹にとっても料理の師匠だし、夏樹も隆の料理を心待ちにしているので、気にするのは止めた。 「お?起きたな。ほら、早くしないとみんなに食べられちゃうぞ」 「あわわ、まって!ごはん~~!!……ぅわっ!?」 「ちょっ、危なっ!」  慌てて起き上がった雪夜がズルっとベッドから落ちかけたので急いで抱き上げる。 「ごめんごめん、慌てなくてもご飯は逃げないから落ち着いて」 「ぅ~~……ぁ~い……ん?」  目を擦っていた雪夜が首を傾げながら夏樹を見た。 「ん?どうかした?」 「なつきさん、おかえりなさいっ!」 「ぅおっと。はは、ただいま」  雪夜が急に抱きついて来たので、ちょっとよろけた。  もしかして、ようやく俺に気付いたの?  苦笑しながら雪夜を抱きしめた。 「……ん?なぁに?」  夏樹の首に抱きついた雪夜が珍しくじぃ~っと見つめてくる。  普段目を合わせてくれないので目を合わせてくれるのは嬉しいのだけれど……何だか様子が…… 「してくれないんですか?」 「え?何を?」 「……ちゅう」 「ん?あぁ……」  雪夜から催促されるとは思わなかったので若干戸惑いながら頬にキスをした夏樹は、なぜか頬を膨らませて不満顔になった雪夜に更に戸惑った。 「……え……と、違うかった?」 「して……?」 「んん?キスを?え~と……でもそれは……」  って口唇にってこと?  それは雪夜の体調が良くなるまでお預けって…… 「あさはしてくれたのに……」 「え、誰がっ!?」 「なつきさん……」 「……はい!?え……俺、キスした!?」 「……した……」 「え、ちょ……ホントに!?……うわ……ごめん……」  朝って、今朝!?ヤバい、マジで覚えてないっ!!    曖昧な記憶の糸を辿って行くと……確かに雪夜にキスをしたような気がする……って、あれ、夢じゃなかったのか……!! 「待って、雪夜身体は?具合悪くならなかった!?大丈夫!?」 「だいじょうぶでしたよ?」 「そっか、良かったぁ~~。ホントごめん。完全に寝惚けてたな俺……」  ほっと安堵しながらベッドに腰かけて自分の顔を撫でた。  何やってんだ俺…… 「なつきさん、おれ、だいじょーぶでしたよ?」  雪夜が俯く夏樹の顔を覗き込んできた。 「え、うん。よかった……って、え~と……雪夜?」 「だ い じょ ー ぶ で し た よ !?」  雪夜がズズイッと顔を近づけてきたので、思わずのけ反った。 「わかった、わかったって!近いよ雪夜っ!圧が凄い!!ちょっとどしたの!?」 「むぅ~~~っ!!」  雪夜がムッとした顔になって夏樹の頬を両手で挟むと口唇を重ねてきた。 「んんっ!?」  ――いや、ごめん。  うん、気付いてたよ。  キスして欲しいんだろうなとは思ってたけど……  雪夜からしてくれると思ってなかったから……ダメだ、顔がにやける……  でも、ちょっと待って。雪夜、嬉しいけど今は…… 「お~い、ナツ~!まだか~!?」 「っ!?」  隆の呼ぶ声に驚いた雪夜の身体がぴょこんと跳ねた。  あ~あ、ほらね。 「はーい、すぐ行きます~!」  下に向かって返事をした夏樹が顔を戻すと、 「……っ!?あああの……あれ?俺……」  すっかり目が覚めてしまった雪夜が、顔を真っ赤にして涙目で口を押さえた。    あ~もう!……タイミングううううっっ!!!  夏樹は微笑んだまま心の中で盛大に舌打ちをした。  ははは、俺の方が泣きたいぃ~~…… 「ああああの……ごめっ……」 「雪夜!」  夏樹はパニクって逃げようとする雪夜を抱きしめて短めのキスをした。   「……うん、ホントだ。大丈夫そうだね……でも続きはまた後で、ね。先にお昼ご飯食べに行こうか。隆さんたちが待ってるよ」 「っん……ぁ……はぃ……」 「キスできるくらい元気になって良かった。しばらく出来なかった分、後で、たぁ~~~っぷりしようね」 「ふぇっ!?あ……あの……ほ、ほどほどで……」 「え?なぁに?聞こえなぁ~~い」 「ちょ、夏樹さん!?――」  雪夜の声をスルーして着替えをベッドに並べる。 「ほらほら、着替えてご飯食べに行くよ~!……あ、俺が脱がせましょうか?」 「えっ!?じ、自分で脱げます!!」 「おや残念」  くだらない会話でじゃれ合いながら着替えさせて、雪夜が落ち着いたところで下におりて行った。     ***

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