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夜明けの星 2-42(雪夜)
「おぅ、おはよぅ雪ちゃん!」
「おは……ようございま……す?」
寝惚けてやらかした雪夜はなんだかんだで結局夏樹にうまいこと丸め込まれた。
やけにご機嫌な夏樹と一緒にリビングに入って行くと、あまりの人の多さに一瞬足が止まった。
「え……ど、どうしたんですか?」
裕也と斎は昨日から来てくれていたので把握しているが、隆 、玲人 、晃 まで来ていた。
つまり、夏樹の出張を代わってくれた浩二以外のお兄さんたちがみんな揃っていることになる。
入院時から1~2人ずつ交代で来てくれていたので一応雪夜もみんなに慣れてはいるが、さすがに全員揃うと迫力があるし、顔面偏差値の高さに圧倒される。
一番カッコいいのは夏樹さんだけど、こんなにイケメンが揃うと……眩しいデス……
「ほら、今日はあの日だから。みんな避難してきたんだよ」
「あの日?」
キョトンとする雪夜に苦笑しながら、隆が雪夜と夏樹の分のお昼ご飯を用意してくれた。
「今日はバレンタインだからな。俺らにとっちゃ、一年で一番怖い日なんだよ」
斎がキレイな顔を顰めた。
「怖い……?」
怖い物なんて何もなさそうな人達なのに……
っていうか、バレンタインって怖い日だったっけ……?
「そそ、兄さん方はモテるから、バレンタインは大変なんだよ」
夏樹が「そんなことよりご飯!」と雪夜に箸を渡して来た。
もしかして夏樹さん、めちゃくちゃお腹空いてる?
「大変って、チョコいっぱい貰うからですか?食べるのが大変ってこと?」
「ん?あぁ、まぁ、それもあるけど、ん~……――」
夏樹が魚の煮付けを食べながらお兄さんたちをチラッと見ると、晃がニッと笑って話を引き取った。
若い頃からモテまくりのお兄さんたちは、バレンタイン当日には道を歩くだけで全然知らない人からもチョコやプレゼントを渡されてしまうらしい。
基本的に見知らぬ人からは受け取らないので全部断るのだけれど、若い頃は断るだけでも時間がかかってなかなか前に進めないこともあったのだとか。
面倒だからと学校や仕事を休んでも、中には家まで押しかけてくる人もいるので、いつからかみんな揃って別荘に避難するのが恒例になったらしい。
40代になってさすがに数は減ったものの、未だに別荘から帰ると家の前にチョコの山が出来ているのだとか……
雪夜の知っているバレンタインと次元が違いすぎて、ちょっとよくわからないです……
それはともかく……
お昼ご飯を食べ終わった雪夜は手をパチンと合わせてごちそうさまをすると、斎の隣にいた菜穂子を見た。
菜穂子も雪夜の様子を伺っていたのかちょうど目が合った。
誰にも気づかれていないのを確認した菜穂子が軽く眉をあげて冷蔵庫を指差し悪戯っぽく笑った。
雪夜がこっそりと冷蔵庫に向かうと、菜穂子も来てくれて仕上げのラッピングを手伝ってくれた。
「これでOK!渡しておいで」
「は~い!」
元気に返事をしたものの、雪夜は夏樹に近付くにつれて足が重くなった。
***
夏樹さんにバレンタインのプレゼントを渡すのは初めてだ。
だって、去年のバレンタインは、夏樹さんに逢える日じゃなかったし……
それに、女の子たちがよくバレンタインは倍返しとか言ってるから、なんだか渡すとホワイトデーのお返しを催促してるみたいに思われちゃうかな、とか、男から貰っても嬉しくないかな、とか……
いろいろ考えてしまって結局渡せなかった。
どうしよう……菜穂子さんに「今年は大丈夫だよ、渡したら絶対喜んでくれるよ」って言われたけど……
そもそもバレンタインってどういうテンションで渡すものなの!?
お兄さんたちとバレンタインの話で盛り上がっている夏樹の後ろで雪夜がもじもじしていると、斎たちが苦笑しながら夏樹に目で合図を送った。
「ん?あ、ごめん。どした?雪夜」
「ふぇっ!?あ、あの……えっと……バババレンタインの、えっと何だっけ……チョコじゃないんですけど、焼くやつ……あ~~えっと、お菓子作ったんですけど……あの、でも、これはその……おおお返しを期待してるわけじゃなくてですね!?あの、何だっけ……あっ、日頃の感謝を込めてってことなので、特に深い意味とかはなくて……」
「……深い意味ないの?」
「え!?あ、えっと……か、感謝の気持ちは……」
「感謝の気持ちだけ?」
夏樹が軽く首を傾げながら雪夜を見てきた。
「あ……あああい……愛……情も……」
だんだんと小声になっていく雪夜の言葉をよく聞こうとして夏樹が顔を近づけてきた。
「ゆ~きや?」
「ひゃいっ!!」
「感謝となぁに?」
「あああの……あい……じょう……でしゅ」
「はは、ありがとっ!」
「わっ!夏樹さんっ!?」
急に夏樹に抱き上げられたので驚いて夏樹にしがみついた。
「ん~~~……雪夜ごと食べたい……」
「ふぁっ!……あああああの、味っ!味見!!食べてみてくださいコレっ!!」
「ぅぶっ!」
耳元に口付けながらボソリと呟かれて、思わず変な声を出してしまったのをお兄さんたちに聞かれたのが恥ずかしくて、カップケーキを夏樹の顔に勢いよくぐしゃっと押し付けてしまった。
「……雪夜ぁ~~……痛 ひ……」
夏樹が雪夜を下ろすと顔を押さえて蹲 った。
「ぁああああっ!!ごごごめんなさいぃいい!!」
「ぶっははは!!ナツ何やってんだ、お前今のはダメだろ~!」
「ばっかだなぁ~。そういうのは部屋行ってやれよ」
「自業自得ってやつだね~」
斎たちが夏樹と雪夜のやり取りを見て爆笑した。
「ぁあ~~……どうしよう……ぐちゃぐちゃになっちゃった……」
「いいよ、俺が食べるし」
「ええ!?いや、あの……でも……これはちょっと……ぁっ!」
雪夜が急いで後ろに隠そうとすると、サッと夏樹に取り上げられてしまった。
「だぁ~め!これもう俺のだからね!?それに形が崩れても味は変わらないよ」
そういうと夏樹さんは袋の中で無残な姿になってしまったカップケーキを嬉しそうに全部食べてくれた。
あ~もう……嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら……
雪夜の初めてのバレンタインは、何だかいろんな意味で思い出に残るバレンタインになった。
***
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