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夜明けの星 2-46(雪夜)

「あの……俺の誕生日、今月じゃなくて……」 「知ってるよ。1月でしょ?」  雪夜が困惑しながら見上げると、夏樹がそれがどうした?という顔で見返して来た。 「じゃあ、どうして……!?」  誕生月でもないのにこんなに盛大に祝われていることに混乱して言葉が出てこない。  夏樹はそんな雪夜を落ち着かせるように、頬を撫でて優しく微笑んだ。 「誕生日の頃は、雪夜は不安定だったし、まだ退院できるかどうかもわからない状態で……誕生日を祝うどころじゃなかったでしょ?だから、いっそのこと雪夜の体調が良くなって、みんなとパーティーを楽しめるようになってからちゃんと祝おうってことになってね、ずっと様子を(うかが)ってたんだよ。で、ここのところ調子も良くなってきたし、そろそろいいかなって」 「そう……だったんですか……」  なるほど……それで……    不安定……そうかもしれない。  だって自分でも別荘に来てしばらくしてから日付を見て、そういえばいつの間にか誕生日過ぎてたのか……と思ったくらいで、その頃の記憶は曖昧だ……  去年の誕生日は、佐々木と相川が祝ってくれて、三人で佐々木が作ってくれたケーキを食べた。  夏樹さんとは会う日じゃなかったし、その時はまだお互いの誕生日の話をしてなかったから……後になって俺の誕生日が過ぎてたって知って、夏樹さんがちょっと怒ったんだっけ……  その時に夏樹さんが、来年はちゃんと誕生日お祝いするからって言ってくれた気がするけど、もしかして……  今朝から斎さんたちがバタバタしていたのも、リビングに入るのを阻止してお風呂に直行したのも、このちょっと気合の入った格好も……全部誕生日パーティーの……俺の……ために……? *** 「びっくりさせてごめんね。俺は先に話しておいてもいいと思ったんだけど、みんながサプライズの方がいいだろうって言うから……」 「あ、いえ……びっくりはしたけど……」    確かにびっくりしたけど……なんていうか、サプライズがどうとかじゃなくて、誕生日をこんなに大勢に祝って貰うことなんて初めてで……どんな反応をすればいいのかわからない……  嬉しいのに、表情(かお)が強張る…… 「雪ちゃ~ん、こっちおいでよ~」  浩二たちの呼ぶ声がする。  みんなが待ってくれてるから早く行かなきゃと思うんだけど、俺……どんな表情(かお)すればいいの? 「あの……俺……どうしよう……?」  嬉しくて、びっくりして、困惑して……いろんな感情がごちゃ混ぜで……笑わなきゃと思うのにいろいろといっぱいいっぱいで、瞳が潤んでしまう。  困り果てて夏樹に助けを求めると、夏樹が軽く眉を上げて、ニッと笑い雪夜を抱き上げた。 「どうもしなくていいよ。泣きたかったら泣けばいいし、笑いたかったら笑えばいい。戸惑ってるなら戸惑った顔してればいいんだよ」 「そ、そんなこと言われても……」 「雪夜、みんな雪夜を祝いに来てるとは言っても、飲んで食べて騒ぎたいだけってのが半分以上だから、あんまり気負わなくていいよ。なんなら、このまま部屋に戻って俺と二人だけで過ごしちゃう?むしろ俺はその方がいい」 「ええっ!?それはさすがに……」  ウインクをしながら悪戯っぽく言う夏樹に、雪夜の方が焦った。  くっ、顔が良い!  ……じゃなくてっ!!  自分の誕生日パーティーに来てくれてる人たちを放置して、二人で部屋に戻るのはダメでしょ……!? 「それにあの……嫌ってわけじゃないし……みんなに会えるのは嬉しい……」 「じゃあ、みんなのところに行く?」 「……はい……あの、でも……夏樹さん……」 「ん?」 「……あの……慣れるまでは隣に……いてくれますか?」  もうすっかりお馴染みの人たちばかりなんだけど、こういう場に慣れていないのでやっぱり少し不安で……この状況に慣れるまでは夏樹さんに傍にいて欲しい……  雪夜が夏樹の服をぎゅっと握ってチラッと顔を見ると、夏樹がふわっと笑った。 「わかった、今日はずっと抱っこね!」 「えっ!?いや、それはちょっと……あの、夏樹さんっ!?」 「はいはい、お待たせしました!今日の主役はまだちょっと混乱気味だから、もう勝手にゆる~く始めちゃってくださ~い」  夏樹は雪夜の声を無視して、雪夜を抱っこしたままみんなの輪に入って行った。 「はいよ~!」 「すまん、すでに始めてた」 「(らい)ちゃんと詩織(しおり)さんなんてもう出来上がってるし」 「うぇ~い!雪ちゃん、おめっとさ~ん!」  お兄さんたちとパパさんたちがご機嫌でお酒の入ったグラスを持ち上げた。 「あ、はい。ありがとうございます!あの、ちょ、夏樹さん!おりますぅ~~!!」 「聞こえませ~ん」 「えええ~~っ!?」  焦っておりようともがく雪夜を、がっちりとホールドしたまま夏樹がお誕生席に座った。  みんなもう見慣れているので、夏樹と雪夜のやり取りを何も言わずニコニコ笑って見守っていた。  いや、お願いだから誰か夏樹さんにおろすように言ってぇえええ!?   ***

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