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夜明けの星 2-47(雪夜)
「雪夜、久しぶりだな!」
「雪ちゃあああん、会いたかったよぉ~~!」
「へあっ!さ、佐々木ぃ~!相川ぁ~!久しぶりぃ~!」
おりる、おろさないで夏樹と押し問答をしていると、聞きなれた声に話しかけられて思わず変な声が出た。
恥ずかしっ!!
佐々木たちもいたの忘れてたぁああ!!
お兄さんたちの前では夏樹さんに抱っこされてることに関してはあまり気にならないけど、佐々木と相川の前では……何となく気恥しい……
そりゃ、二人の前でもしょっちゅう抱っこされてたから、もう今更なんだけど!?
「ほら、雪夜。こっち来いよ。いつまで抱っこされてるつもりだ?」
佐々木が雪夜に向かって両手を差し出してきた。
「あ、いや、あの……これは……夏樹さん、あの、もう大丈夫ですっ!おりますぅ~!」
「え~?もうおりちゃうの?」
「っつーか、あんたがお誕生席 に座ってどうすんだよ。さっさと雪夜おろして、あんたはそっち行け。ほ~ら、雪夜はこっちにおいで~」
「ちょっと佐々木!何か俺の扱いひどくないか!?俺これでも雪夜の恋人なんですけどっ!?それに雪夜が抱っこしてって言ったんだぞ!?」
夏樹が佐々木に文句を言いつつ、おろすどころか更に雪夜をぎゅっと抱きしめてきた。
確かに俺が言ったんですけど……って、いやいや、俺は傍にいて欲しいって言っただけで、抱っこしてとは……
「だから、雪夜はもう大丈夫だっつってんだろ!?だいたいな、俺はまだあんたには怒ってんだからなっ!言いたいことが山ほどあんだよ!!」
「うわ~……佐々木って意外と根に持つタイプ……?」
夏樹が隣にいた相川に小声で耳打ちした。
「え?翠 は根に持ったりしねぇよ?ただ記憶力がめちゃくちゃいいんだ。子どもの頃のこととか俺が言ったこととか、俺が忘れてるようなことも全部事細かく覚えてるからな!」
相川がなぜか自分のことのように自慢気に言う。
「相川……俺お前のそういうとこ嫌いじゃないぞ」
夏樹が苦笑しながら相川の肩を叩いた。
そういうとこってどういうとこなんだろう……?
「おいこら、お前ら!聞こえてんだよっ!!そもそも、根に持たれるようなことをしたのは誰だよ!?」
「はい俺です!……って、だからそれに関しては何回も謝っただろ!?俺だっていろいろ大変だったんだよっ!?――」
「ふっ……ふふ、も~二人とも……ホント仲良しさんだなぁ~」
佐々木と夏樹の間に挟まれていた雪夜は、二人の相変わらずのやり取りに、相川と顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「ちょ、雪夜……仲良しさんって……え、仲良いって言うのか?これって」
「あんたと仲が良いって言われても嬉しくねぇけど……」
夏樹と佐々木がお互いの顔を見て盛大に顔をしかめた。
「いや、おまえら、誰がどう見ても仲良いと思うぞ?」
「そうそう。似た者同士ってやつだな」
横で見ていた隆たちが、呆れ顔で笑った。
「……コホン、あ、雪夜、何か食うか?」
「……んん゛、あ、雪夜、何か飲む?」
お兄さんたちにまで言われて気まずくなったのか、二人揃ってわざとらしく咳払いをすると、同時に雪夜に話しかけてきた。
「真似すんなよ、夏樹さん!!」
「それはこっちのセリフだっつーの!」
「あ~もう!仲が良いのはわかったから!漫才は余興に取っておけ」
斎の言葉に、みんなが一斉に笑い出した。
雪夜がサプライズに混乱してしまったせいで微妙に気まずくなっていた空気が、二人のおかげで一気に和やかになった――
夏樹さんも佐々木も、狙ってしてるわけじゃないと思うけど……でも、こうやってさりげなく雪夜を助けてくれるところが……――
「あははっ!ほら、やっぱり仲良しさんだ~!」
雪夜はみんなと一緒に笑いながら、そっと二人の服の裾を握って、小さい声で「ありがと」と呟いた。
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