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夜明けの星 2.5-3(夏樹)
「ねぇ……ちゅ~して?」
「ん~?後でね」
「やだぁ~!いまがいい!」
「あ~と~で!」
「あとっていつ!?」
「それはね……」
夏樹は膝の上に座って潤んだ瞳で見上げて来る可愛い恋人の額を指で軽く弾いた。
「雪夜の酒が抜けてからですっ!!――」
***
別荘から家に戻って2週間程経った。
雪夜は数か月ぶりに帰って来たにも関わらず、この家にはすぐに慣れた。
斎に「ここに戻って来て安心したんだろ」と言われたことを改めて思い出して、ちょっと顔がにやけた。
バースデーパーティーではしゃぎ過ぎたせいでしばらく体調を崩していたが、たっぷり眠ったあとは不安定になることもなく、今のところトラウマも出ずに精神的には安定している。
浩二の配慮で夏樹は基本的に在宅勤務だが、たまに職場に呼ばれる。
夏樹が職場に出る時は兄さん方の誰かが雪夜についてくれることになっているが、今日は朝になって急遽呼び出されてしまい兄さん方に連絡が間に合わなかった。
仕事に行くのを渋っている夏樹に、
「昼には帰って来るんでしょ?それくらいなら俺ひとりでも大丈夫ですよ!もう元気になったし!」
と、雪夜が笑った。
元気になったとは言えまだ身体はダルイのか雪夜は昼頃までベッドでゴロゴロしていることが多い。
午前中だけなら……雪夜もほぼ寝てるから大丈夫かな?
「ぅ゛~~……わかった。行って来る……昼には帰るけど、何かあればすぐに連絡してくるんだよ?いい?」
「はーい!」
少し心配だったが、雪夜も落ち着いてるし、すぐに帰って来るんだし……と自分に言い聞かせて家を出た。
これが間違いだった。
昼までに帰るはずが、こういう時に限ってトラブル続きで結局一日職場で過ごすことになってしまった。
雪夜にはこまめに連絡を入れて様子を確認していたが、午後からは一刻も早く仕事を終わらせるために、仕事に集中していた。
何とか定時に終わらせて夕食の買い物をした夏樹が家に帰ると……――
「ただいま~!雪夜大丈夫だ……った?」
「あ~~なつきさんらぁ~~!おかえりぃ~~!らいじょーぶらぉ~!」
「全然大丈夫じゃないいいいっっ!!!」
すでに出来上がった雪夜を見て、夏樹は両手で顔を覆うとその場に崩れ落ちた。
***
「なんで酔っ払ってんのぉおお!?」
「ふぇ?」
テーブルの上を見ると、桃のチューハイの空き缶が転がっていた。
「ちょ、雪夜さん、コレ飲んじゃったの!?なんで……」
「あのね~、おひるごはんね~、さんどうぃっちたべたぉ~!」
「へ?あぁ、お昼ご飯にサンドイッチね……あ、もしかして……!?」
昼に帰れないと連絡した時に、雪夜はお昼ご飯をコンビニで買ってくると言っていた。
コンビニは家から徒歩10分程なので、まぁ、それくらいなら一人でも大丈夫だろうと思っていたのだが……
「それと~、もものじゅーすかった~!」
雪夜さん、これお酒ぇえええ!!
ちゃんと「お酒です」って書いてあるよ!?
雪夜は酒に弱い。
佐々木たちの話だと、チューハイ1缶飲み切る前にもう完全に出来上がると言っていた。
日本酒をちょっと舐めただけでひっくり返ったこともある。
それに初めて会った時なんて……居酒屋での飲み会に参加していた雪夜は、まだ未成年だったから自身は酒を一滴も飲んでいなかったのに周囲が飲んでる酒の匂いだけで軽く酔っていたらしいし……
その雪夜が、チューハイを1缶飲み切っている……
マジかよ……どうすんのコレ……
夏樹は思わず頭を抱えた……――
***
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