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夜明けの星 2.5-9(夏樹)

 ――数か月ぶりにしては、俺だいぶ頑張って手加減(セーブ)したと思うよ?  今まで散々煽られて焦らされて……本当なら朝まで容赦なく抱き潰したいところを、結局2回で我慢したし?  雪夜がソッコーで中イキして気を失っちゃったから仕方ないけど。  え?いや、そりゃまぁ……そうなるように仕込んだのは俺だけど……  それに、怖いって泣かれちゃったら……ねぇ?  無理強いは出来ないでしょ?いくら快感だとしても!  っていうか、気持ち良すぎて怖いとか可愛すぎでしょもう……っ!   「――ね、どう思う?」 「そうだね~……まぁ、恋人同士なんだからもっとぐいぐいイケばいいんじゃない?(棒読み)」 「ぐいぐいって……だって久々だから、あんまり激しくするとまた発作が起きちゃうかもしれないし……――」 「まぁそこらの加減は必要かもしれないけど……いいかい、なっちゃん?セックスは中イキさせてからが本番だよ!雪ちゃんは快感に慣れてないってだけで、なっちゃんとのセックス自体は嫌がってるわけじゃないんでしょ?だったら~、もっとガンガン奥まで責めてなっちゃんなしじゃいられなくなるくらいぐっちょぐちょのとろっとろに快楽を――」 「はい、ストップ。可愛いクマさんがそんな卑猥なこと言わない!!」 「え~~?なっちゃんが聞いてきたんじゃないか~!」  夏樹は、雪夜が佐々木たちと遊園地に遊びに行った時に持って帰って来た巨大なクマのぬいぐるみに向かって軽くチョップをした。 ***  実は、夏樹たちが別荘に行っている間に、裕也がこのクマのぬいぐるみにカメラとマイクを仕込んでいたのだ。  別荘から戻ったあとは、いつまでも夏樹や兄さんたちが一緒にいるわけにはいかない。  だから、雪夜が家にひとりでいる時の防犯と、雪夜の体調を見守るため。という名目で。  一応そのことは夏樹には知らされていた。  事後報告だったが、まぁ『雪夜のため』と言われれば……怒ることも出来ないし……  もちろん、普段はただのぬいぐるみと同じだ。  でも念のため、夏樹がいる時はぬいぐるみにはさりげなくタオルをかけてカメラを塞いでいる。  そして今日。  急遽職場に呼び出され、昼も帰れないとわかった時、このぬいぐるみのことを思い出した夏樹は、雪夜に連絡をした後、裕也に連絡を入れた。  朝連絡した時は「今日は忙しいから家に行くのは無理ぃ~」と言われたが、映像を確認することはどこからでもできる。  だから、雪夜の様子をぬいぐるみを通して見守っていて欲しいとお願いしていたのだ。 「で、雪ちゃんは~?」 「雪夜ならお風呂に入れて、今はベッドで寝かせてますよ」 「あら、優し~!なっちゃんが全部してあげるんだ?」 「だって、ちゃんとキレイにして服着せて寝かせないと風邪ひくし……」 「かっ!」 「恋人ですっ!っていうか、それくらい普通にするでしょ!?」 「え?僕してもらったことないけど?」 「それは裕也さんがバリタチで、相手がぶっ壊れるまで徹底的にヤるからでしょ……だからどっちかっていうと、裕也さんがしてあげる側!」 「え~?別に僕だって恋人相手にはそこまで……してるか。コホン……え、じゃあなっちゃんって今までの彼女にもそうやってしてたの?」 「するわけないでしょ。雪夜だけですよ。俺が愛してるのは雪夜だけなんだから……って、そんなことより、裕也さん、雪夜が酒飲んでることに気づいてたんでしょ?なんで知らせてくれなかったんですか!」 「だ~って、酔った雪ちゃんにアタフタしてるなっちゃんが見たかったから~!予想以上に面白かったよ~!」  くそっ、そういう人ですよね、裕也さんって……っ!! 「何もなかったから良かったけど、酔ってふらついて怪我でもしたらどうするんですか!」 「なっちゃん、過保護すぎ~!大丈夫だよ、立ち上がりそうになったらちゃんと話しかけるつもりだったし~」 「いや、それはダメでしょ。いきなりクマのぬいぐるみが喋ったら驚き過ぎて雪夜の心臓が止まっちゃう!」 「あはは、雪ちゃん酔っ払ってるんだよ~?それこそ夢だと思うって」 「はぁ~~~……まったくもう!」  夏樹は裕也に聞こえるように、わざと大きなため息を吐いた。 「まぁ、なんだかんだで久々に抱けたんでしょ?だったらいいじゃんか」 「えぇ、まぁそうですけどっ!!」 「良かったら今度おススメの(大人の)おもちゃ教えてあげようか?コスプレ衣装とかも貸すし。普段と違うプレイも盛り上がるよ~?」 「そんなの必要な……ん゛~~~、い、今は大丈夫です……」  即答しかけて、コスプレという言葉に学祭の時のゆっきーを思い出した夏樹は、ちょっと返答に詰まった。  おもちゃは別に必要ないけど、コスプレはちょっと……見てみたいかも……  だって雪夜はどんな格好しても絶対可愛い!! 「ふふ、マンネリしそうになったらいつでも言って~?あと、なっちゃん?」 「はい?」 「ぬいぐるみに向かって話しかけるイケメンも悪くないけど、普通に電話かけてくれば良かったんじゃない?」 「……あ゛」 「それじゃ、またね~!」 「もっと早く言って下さいよぉおおお――」  夏樹は両手で頭を抱えると、クマさんに(すが)りつくようにして崩れ落ちた。 ***  盗聴器の時もそうだったが、裕也は依頼による監視の場合、基本的にこちらから連絡するまでは監視を止めない。  夏樹は雪夜が酔っ払っていたことに動揺し過ぎて、帰宅後、裕也に連絡するのを忘れていた。  雪夜を寝かせて水を飲もうと寝室から出て来たところでクマから話しかけられて、裕也のことを思い出したのだ。  見た目に反して兄さん方の中では一番どSでちょっとエグイ性癖を持っている裕也ではあるが、別に他人の情事を見る趣味はない。  だから夏樹たちが寝室に入って行った時点でマイクをオフにして画面からも目を離していたらしいが、カメラ自体はまだオフにしていなかったらしい。  ん?いや、だから裕也さんが話しかけて来たからそのままクマに向かって話してたんじゃないかっ!!  そりゃまぁ……すぐに電話に切り替えても良かったんだけど……別にわざわざ電話するほどの内容じゃなかったし?ただの惚気(のろけ)だから……  雪夜がクマのぬいぐるみに話しかける図は可愛いけれど、俺がぬいぐるみと話してるのは……どう考えても変態っぽい……  今頃、腹を抱えて笑っているであろう裕也の姿が目に浮かんだ。  くっそぉ~~!!そういう人ですよねっ、裕也さんってっっ!!  思わずぬいぐるみのお腹に一発拳を打ち込んでしまい、少し凹んだそのお腹を慌てて撫でた。  ごめんごめん、クマさんは悪くないよな……  夏樹はちょっと首筋を掻くと、小さくため息を吐いてベッドに戻り、雪夜の隣に滑り込んだ。  問題は、明日だな。  眠る雪夜の髪を梳きながら、抱き寄せる。  また俺といるのを恥ずかしがって佐々木のところに逃げなきゃいいけど……  まぁ……逃がさないけどね?だいたい、誘惑してきたのはそっちなんだから!!  夏樹は今回のことで、  うん、やっぱり雪夜は禁酒させよう……  と心に誓った。 *** 「ちなみに、雪ちゃんがクマに向かってなっちゃんのことを惚気(のろけ)まくってたのは、なっちゃんにはまだ秘密です。こういうのは、使が肝心だから……ね!」by 裕也 ***

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