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夜明けの星 3-1(雪夜)

 春霞(はるがすみ)の空を見上げて  ふと思う  あぁ……春の空ってこんな色してたんだ……  去年の今頃  俺の心は一面モノトーンの世界だった  何も見えない  何も聞こえない……  春の陽気も、色づく木々も、花も、鳥も……何もかもどうでも良かった  夏樹さんのいない日々を生きていくことが、ただただ辛くて……  罪悪感と寂寥感に押しつぶされそうで……むしろそのままつぶされてしまいたいと思っていた  一年後の現在(いま)、また夏樹さんと一緒にいられるだなんて、思いもせずに――……  一生分の運を使うというのは……こういうことを言うのかもしれない  それくらいこの一年間は毎日がしあわせで……夢みたいで……  いつかこの夢から醒めてしまう気がして……怖い……  馬鹿げている  俺はちゃんと起きてるし、夏樹さんはちゃんと傍にいてくれるし……  頬をつねれば痛みも感じる  夢なんかじゃない  なのに……頭のどこかで……『これは夢……全部……虚構(ゆめ)……』……という声が聞こえる気がする……  俺の頭の中も……春霞の空みたいだ……  どこか霞がかって……明るいのに全体的に薄っすらぼやけている……  ……馬鹿げてる……夢なんかじゃないっ!……夢なんかじゃ……ない……よね?―― ***

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