282 / 715
夜明けの星 2.5-5(夏樹)
「――雪夜?」
「な~に~?」
雪夜がパッと顔をあげて笑った。
はい、可愛い。
「おまじないは終わり?」
「おまじない~?ん~……もうおわり~!」
「なんで?」
「もうかなっちゃったから」
「ん?あぁ、でもキスはしなくていいの?」
「うん、もうい~の!」
「え?なんで?」
あんなにちゅうしてって言ってたのに!?
夏樹が訝しげに雪夜を見ると、雪夜は一瞬泣きそうな困ったような顔をした後、にこっと微笑んだ。
「……ふふ……だって、もうおれ、い~っぱいしあわせだから!だから……もういいの……」
雪夜は夏樹の首にぎゅっと抱き着いてきて「ありがとう」と囁くと、夏樹の膝からおりて隣に座りテレビを見始めた。
……んん?
夏樹は雪夜の言動があまりに予想外で、すぐに反応できなかった。
え、どういうこと?
「……っいやいやいや、そこもっとグイグイくるとこじゃないの!?」
何勝手に満足してんの!?
「ふぇっ!?」
「あと一押し頑張ってみようよ!?そしたら俺が折れるかもよ!?」
「え?……あの……」
「ほら、あと一押し!」
「え?ひ、ひとおし?」
「俺に何して欲しいんだっけ?」
「え……と……ちゅう……?」
「ちゅうを?」
「ちゅう……してほしい……」
「ん、よく出来ました」
夏樹は口元を綻ばせると、夏樹の勢いに驚いてのけ反っている雪夜を抱き寄せ口唇を重ねた。
「ん……っぁ、ふっ……っ」
「ほら、キスしたかったんでしょ?口開けて?」
「ケホッ……んぇ?……ぅむ~~!?」
手探りでリモコンに触れてテレビを消すと、舌を絡めながらソファーに押し倒した。
「待っ……なつ……っんぁ……」
「なぁに?」
「いき……できな……んっ」
「いつも言ってるでしょ?鼻で息するんだよ。はい、頑張って」
「んん!?……っ、は……っん」
いつもよりも長めに、でもあえて性感帯は避けて口唇と舌だけを貪るようなキスをする。
夏樹の服を握っていた雪夜の手から力が抜けて、パタリと落ちた。
「っ……ケホッ……っ」
軽くむせながら息を弾ませる雪夜の顔が完全に蕩けているのを見て満足した夏樹は、雪夜の頭を撫でながらにっこり笑った。
「雪夜、実はあんまり酔ってないでしょ?」
「ふぇっ!?」
「昼に飲んだんなら、今の時間までそんなに酒が残ってるはずないし。帰って来た時はまだほろ酔いだったけど、おまじないの辺りでもう完全に醒めてたよね?」
「あ……の……」
焦った顔の雪夜が焦点の合わない瞳を必死に動かして夏樹を見る。
「俺、雪夜が酔ってると思って手出すの我慢してたんだけどな~……なんでずっと酔ったフリなんてしてたの?」
「え、我慢って……ちょ、あの夏樹さん?」
「まぁ、可愛かったからいいけど。でも、今夜は覚悟してね?酔ったフリして俺を散々煽ってくれた責任は取ってもらうから。もちろん、身体で……ね?」
「待っ……違、あの、酔ったフリなんか……」
「はいはい、酔いが醒めてるなら先に晩御飯食べよ。言い訳なら作りながら聞いてあげる」
夏樹は雪夜の頬を軽くペチペチと叩いて起き上がると、雪夜を残してキッチンに向かった。
「ち、違うんだってばぁあああ~~!!俺ほんとに酔ってて……夏樹さぁあああんっ!?」
半泣き状態の雪夜の叫びが聞こえたが、鼻歌を歌いながらスルーした。
簡単に出来るもの……う~ん、親子丼でも作ろうかな~……――
***
ともだちにシェアしよう!