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夜明けの星 2.5-7(雪夜)

 酔っぱらった雪夜がぬいぐるみにもたれてウトウトしていると、玄関の開く音がした。  ん~?誰だろう。 「ただいま~!雪夜大丈夫だ……った?」  あれ?夏樹さんだ……でも夏樹さんはお仕事に行ってるんだよ?  あ、わかった。これ夢かぁ~! 「あ~~なつきさんらぁ~~!おかえりぃ~~!らいじょーぶらぉ~!」 「全然大丈夫じゃないいいいっっ!!!」  崩れ落ちる夏樹を見て、雪夜はケラケラと笑った。  夏樹さんあんなところでうずくまって何やってんだろ~。おもしろ~い! ***  酔っぱらって時間の感覚がなくなっていた雪夜は、夏樹が帰って来た時まだほろ酔い夢気分だった。  夢だったら……ちょっとくらい甘えてもいいかなぁ~?  普段は照れてなかなか言えないことを、言ってみる。  夢の中なら目を見つめることだってできる。  だって……夢の中なら、どれだけ甘えても、どれだけわがまま言っても、嫌われないでしょ?  豪華客船での事故の直前、夏樹に「嫌いになったりしないから、いっぱい甘えて欲しいし、わがままだって言って欲しい――」と言われたのだが、雪夜は事故の前後の記憶が曖昧になっているので、そのことについても、夢か現実かわからず確信が持てずにいた。  夏樹に確認すればいいだけの話だが、確認してもし夢だったら……?  そんなことを聞いてウザいと思われると辛いので結局そのままになっている。  夏樹さんは出会った頃に「わがままなのは嫌い。ウザいからすぐ別れる」って言ってた……  それは絶対間違いないもん……っ!  だから……船で言われたような気がするのは、病院で見た夢なんだ…… *** 「――おまじないいっぱいかけてみて?そのうちにかかるかもよ?」  夏樹が苦笑しながら雪夜の人さし指を軽く握って自分の顔の前に持って行った。 「いっぱい?ん~……なつきさんは~おれをすきにな~る!」  なんちゃって! 「……ん?あ、雪夜、それは無理だな」 「……っえ!?……なん……なんで……っ……むり?」  あれ?夢の中なのに……?やっぱり俺じゃダメなの?俺が男だから?迷惑ばっかりかけてるから……?ウザい……から?  心当たりしかないや……はは…… 「うん、ごめんね。俺ね、目の前の子のこと、もうとっくにを通り越してになってるし、むしろから」 「……え?」 「だから、今更また、ただのに戻るのは難しいかな~」  んん?  え、いくら夢の中だからって俺に都合良すぎでしょ!!  夏樹さんに何言わせてんの!?  でも…… 「……ふふ……うれし~……」  嬉しい……けど……  何だかこれ以上は夏樹さんに申し訳なくて、膝の上からおりた。    妄想も程々にしないとね……  これだけ好き放題したら、もう十分だ。  夏樹さんに愛してるって言って貰ったから……いっぱい甘えさせて貰ったから……うん、もう俺しあわせいっぱいだぁ……  と、ひとりで幸せに浸っていると……   「……っいやいやいや、そこもっとグイグイくるとこじゃないの!?」  突然、夏樹に肩を掴まれてガクガクと揺さぶられた。 「ふぇっ!?」 「あと一押し頑張ってみようよ!?そしたら俺が折れるかもよ!?」 「え?……あの……」  な、なに!?夏樹さん、急にどうしちゃったの!? 「ほら、あと一押し!」 「え?ひ、ひとおし?」 「俺に何して欲しいんだっけ?」 「え……と……ちゅう……?」 「ちゅうを?」 「ちゅう……してほしい……」 「ん、よく出来ました」  夏樹は、驚いてのけ反っている雪夜を抱き寄せると口唇を重ねてきた。  あれ?え、なんで?待って、俺もう十分だって……  これ夢じゃないの!?  え、どういうこと!?  夏樹さん……本物!?  混乱して上手く息継ぎができない。  もう頭がフワフワして……力が入らな……っ―― 「っ……ケホッ……っ」  夏樹は、むせている雪夜の頭を撫でると、にっこり笑った。 「雪夜、実はあんまり酔ってないでしょ?」 「ふぇっ!?」 「昼に飲んだんなら、今の時間までそんなに酒が残ってるはずないし。帰って来た時はまだほろ酔いだったけど、おまじないの辺りでもう醒めてたよね?」 「あ……の……」  夏樹さんは笑っているけれど、この顔は不機嫌な顔だ。  雪夜は思わず自分の頬をつねった。  痛い……  ってことは、やっぱりこれ、夢じゃなくて…… 「俺、雪夜が酔ってると思って手出すの我慢してたんだけどな~……なんでずっと酔ったふりなんてしてたの?」 「え、我慢って……ちょ、あの夏樹さん?」 「今夜は覚悟してね?俺を煽った責任は取ってもらうから。もちろん、身体で……ね?」 「待っ……違、あの、酔ったフリなんか……」 「はいはい、先に晩御飯食べよ。言い訳なら作りながら聞いてあげる」  夏樹は、起き上がると雪夜を残してキッチンに向かった。  え……えぇええええええ!? 「ち、違うんだってばぁあああ~~!!俺……俺、ほんとに酔ってて……夏樹さぁあああんっ!?」  騙すつもりは全然なくて……俺全部夢だと思ってっ……  夏樹さんお願いだから聞いて~~~~っ!!!!  雪夜は半泣き状態で夏樹の背中を追いかけた―― ***

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