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夜明けの星 3-5(雪夜)
「俺は相川だ。んで、こっちが……ってそれは知ってるか」
佐々木が一緒に食べることを許したので、相川もひとまず自己紹介をした。
普段は佐々木の言葉に何かと茶々を入れてくる相川だが、雪夜絡みだと素直に従う。
まるで打ち合わせでもしていたかのようにスムーズに話が進んでいくけど、山口がここにいるのは想定外のはず……だよね?
「あ、ごめん。俺も名前はまだ名乗ってない。えっと、上代 です」
まだよくわからない相手に名乗りたくはなかったが、佐々木たちが名乗っているので雪夜も名乗らないわけにはいかず、仕方なく名字だけ伝えた。
「かみしろ……ゆきや?」
何で知って……って、さっきから相川たちが呼んでるから、そりゃわかるか。
「そうだけど?」
「俺も雪ちゃんって呼んでいい?」
「はぁ!?お前俺より年下だろっ!?」
「え~いいじゃんか。『雪ちゃん』って顔してるし」
「顔は関係ないだろっ!!」
「それにさ~、雪ちゃんってさっきから俺と話す時とその佐々木先輩たちと話す時とでキャラ違いすぎじゃない?」
佐々木と相川の圧に若干たじろいでいた山口だったが、雪夜を相手にした途端、また最初のように軽口を叩いてきた。
キャラ?何だそれ。
佐々木たちは親友なんだから、今さっき会ったばかりの他人と佐々木たちとで態度が同じなわけないだろっ!!
だいたい、そういうお前だって……
「おい、佐々木と相川には先輩つけるのに俺にはつけないってどういうことだよ!」
「ん?……雪ちゃん先輩って呼んでほしいの?」
「上 代 先 輩 だ っ!」
「う~ん、だって雪ちゃんは年上って感じしないし、頼りないし、ナンパされてたし~……だいたい留年してんだから同期じゃんか」
「留年なんてしてない!」
「え、留年じゃないの?」
「ちが……」
「はいはい、そこまで!とりあえず昼飯食うぞ!」
佐々木が手をパンパン叩きながら間に入って来た。
興奮気味の雪夜を落ち着かせるために、佐々木が山口と雪夜を引き離した。
佐々木は山口の耳を引っ張り耳元で何かを囁いた後、相川に山口を連れていけと目で合図をした。
「雪夜、ちょっと落ち着け。そんなに興奮したら具合悪くなっちゃうぞ?」
「ぅ~……!!あいつムカつくぅ~~!!」
相川に引きずられるようにして食券機に向かう山口を見ながら、雪夜は眉間に皺を寄せて頬をぷっくりと膨らませた。
「あぁ、そうだな。なかなかいい性格してるみたいだな」
「助けてくれたことは感謝してるけど、俺あいつと友達になりたくない……」
ただでさえ久々に変なやつらに絡まれて気が立っているのに、山口が追い打ちをかけてきたので、雪夜の中ではもう山口も【お友達対象外 リスト】に入っていた。
「まぁ……それはもうちょっと話してみて考えよう。一回や二回話したくらいじゃ相手のことなんてわからないし。な?」
「……ぅん……」
「それより、雪夜今日はお弁当だろ?見せてよ」
佐々木が雪夜の頭をポンと撫でると、話題を変えた。
「あっそうなんだよぉ~!!今朝ね、早起きして夏樹さんと作ったの!みてみて~!!」
雪夜は鞄からお弁当を取り出すと、満面の笑みで蓋を開けた。
***
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