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夜明けの星 3-4(雪夜)
「雪夜~!こっちこっち!」
食堂に入ると佐々木が手を振っているのが見えた。
雪夜はふっと肩の力を抜いて微笑むと、手を振り返しながら軽い足取りで近付いた。
「雪ちゃ~~ん!」
「佐々木ぃ~!」
「……へ?」
両手を広げて待っている相川の横をすり抜けて、佐々木に抱きつく。
「わぁ~ん!ママぁ~!会いたかったよぉ~~!」
「よしよし、頑張ったな!具合悪くならなかったか?」
「うん!大丈夫だったよ!」
「もしも~し……雪ちゃん?相川くんもここにいますよ~……?」
「へへ、ごめ~ん。相川も会いたかったよ~!」
淋しそうに自分を指差す相川に悪戯っぽく笑ってペロッと舌を出すと、相川にも抱きついた。
「良かったぁ~!俺透明人間になったのかと思って焦った~!」
「こらこら、ちょっと強すぎだバカッ!加減しろよ!」
雪夜が相川にぎゅぅ~っと抱きしめられて手をばたつかせているのを見て、佐々木が苦笑しながら相川を引きはがした。
「それで、どうだった?変なやつらに絡まれなかったか?」
「う~ん……ちょっと絡まれたけど……」
「え!?大丈夫だったの!?雪ちゃん変なことされなかった!?」
「変なこと?えっとね、触られそうになった。何か女の子と間違われちゃったみたいで……男だって言ったら、本当についてるなら見せろって……」
「何だってぇぇ!?ブザーは?鳴らしたの!?ちゃんと鳴らしたよね!?」
相川が眉間に皺を寄せて真剣な顔で雪夜の肩を掴んだ。
いつもはデレデレと締まりのない顔をしてるけど、本気で怒った時や心配してくれている時の相川はちょっとカッコいい。
本人には言わないけどね!
「鳴らそうとしたんだけどね、知らない人が助けてくれた」
「へぇ~……なぁ雪夜。それってもしかして、後ろにいるそいつ?」
「え?」
佐々木に言われて振り返ると、雪夜たちの少し後ろで目を丸くして茫然と立っている男がいた。
「あぁ、そうそう。この人だよ。って、何でここにいるの?俺に何か用?」
「ってことは、雪夜が連れてきたわけじゃないんだな?」
雪夜が警戒しているのを見て、佐々木と相川の表情が若干険しくなる。
三人の視線を浴びて、男が戸惑いながら口を開いた。
「……え?あ、いや、ほら……さっきあんまり話せなかったから昼飯誘おうと思ったら、講義が終わった途端にすごい勢いで飛び出していったから……俺も慌てて追いかけて来たんだけど……」
は?なんでわざわざ追いかけてくるの?
相手の意図が読めず、雪夜は思わず佐々木の服の裾をギュっと握った。
佐々木は安心させるように雪夜の背中を軽くポンポンと撫でると、雪夜を庇うようにして一歩前に出た。
「いいよ、一緒に食おうか。雪夜を助けてくれたお礼はしておかないとな。俺は佐々木だ。そっちは?」
「あ、えっと……山口……です。山口巧 です!」
山口と名乗ったその男は、にっこり笑いながら圧をかけてくる佐々木と相川に気圧されたのか、口調を少し改めると、ぎこちない笑顔を浮かべた。
何なのこいつ……話なら次の講義の時でも出来るのにわざわざ追いかけて来るとか……やっぱりこいつも……?
雪夜は佐々木の背中に隠れながら、訝しげに山口の様子を窺った。
***
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