292 / 715
夜明けの星 3-6(雪夜)
別荘にいる間は暇だったので、体調が良くなってからはお兄さんたちに色々と教えて貰った。
簡単な護身術やストレッチ。それから、簡単なお料理も……
それぞれに教え方に特徴があって得意分野もバラバラなので、教わっている俺は毎回混乱しまくっていたが、それはそれで愉しかったし、お料理の方はそれなりに成果があった。
なんと……卵焼きをひとりで焦がさずに作れるようになったのだっ!!
オムライスも、ちゃんとふわとろっぽいのが作れるようになったし、あとは、野菜スープとか、茹で卵とか、サラダとか……え~と……とにかくちょっとだけお料理のレパートリーが増えた!
そんなわけで、今日は夏樹さんと一緒にお弁当を作って来たのだ。
というか、実は「お弁当を作ろう」と提案してくれたのは夏樹さんだ。
「せっかく上手に卵焼きを作れるようになったんだし、明日一緒にお弁当作ってみない?――」
夏樹さんは、俺が夏樹さんの作ったお弁当が好きだということを知っている。
だから、「お弁当があれば、お昼ご飯が楽しみになって昼まで頑張れるでしょ?」ということらしい。
完全に子ども扱いです。
でも……実際、佐々木たちにお弁当を見せるのが楽しみで何とか昼まで頑張れた。
夏樹さんは俺の性格をよくわかっている……
自分でも単純だなぁと呆れるけど、夏樹さんが俺のことを気にかけてくれて、いろいろ考えて元気づけようとしてくれているのが嬉しくて、ちょっとくすぐったい。
ちなみに、護身術の方は……まだ全然身についていない……
体力が落ちていたせいか、少し動くと疲れてしまうので、あまり練習自体出来ていない。
でも今日みたいにまた絡まれるかもしれないから、やっぱり身につけておいた方がよさそうだ。
夏樹さんに教えて貰おうかな……
***
「お~美味しそうだな!」
佐々木がお弁当の中身を見て顔を綻ばせた。
「でしょ~!?まぁ、ほとんど夏樹さんが作ってくれたんだけどね。あ、でもこの卵焼きは俺が作ったんだよ~!!ね、食べてみて!?」
今日は佐々木たちと一緒に食べられるように、大きめのお弁当箱だ。
雪夜がひたすら卵焼きを焼いている隣で、夏樹が次々といろんなおかずを作ってくれて、お弁当箱にいっぱい詰めてくれた。
その中から、まずは自分が作った卵焼きを取って佐々木の口に放り込んだ。
「……ん?」
「どう?どう?美味しい!?」
「っま!」
「ま?」
「うっま!」
「ほんとに!?」
「うん、美味しい!上手に作れてる!」
「やったー!」
雪夜は思わず万歳をした。
佐々木には以前オムライスの作り方を教えて貰った。
料理初心者で包丁の持ち方も卵の割り方もわからなかった雪夜に、根気強く教えてくれたのが佐々木だ。
その佐々木に褒めて貰えたのが素直に嬉しい。
「スゴイな~。あの雪夜がここまで作れるようになるのか~。さすがプロは違うよな。俺もまた隆 さんに教えて貰いたいな~」
「また今度隆さん来てくれるって言ってたから、その時に佐々木もおいでよ!」
「お、いいのか?じゃあ、行こうかな~!――」
「あー!何それ!美味しそう!」
せっかく佐々木に褒められて気分が上昇していたのに、山口の声を聞いてまた急降下した。
思わずため息が出る。
「そのお弁当どうしたの!?雪ちゃん……先輩が作ったの!?」
「え?あぁ、まぁな……」
先輩をつけろと言ったのを思い出したらしい。
『雪ちゃん先輩』じゃなくて『上代先輩』って名字で呼べよ!とは思ったが、まぁ……先輩をつけただけ良しとするか……
「って、こらっ!」
山口がお弁当箱に手を伸ばして来たので、その手をペチンと叩く。
「いてっ!けちぃ~!こんなにいっぱいあるんだから、一つくらい食ってもいいじゃんか~!」
お前のために作って来たんじゃないもん!!
「ただ~いま!あ、お弁当だ~!雪ちゃん頑張って早起きしたんだ?」
「そうなんだよ~!頑張った!相川も俺が作った卵焼き食べて!?」
雪夜に叩かれた手を振りながら口唇を尖らせている山口を無視して、相川に卵焼きを差し出した。
「やった!ありがと~!……うん、めちゃくちゃ美味しいよ!」
「そう?良かった~!みんなで食べる用にいっぱい作って来たから、食べて食べて~!」
「わーい!」
「って、こら山口!なんでお前が食べようとしてんだよ。お前は自分で買ってきたやつ食べろよ!」
相川たちよりも先に、また山口が手を伸ばして来たので再度手を叩く。
「え、だって今、雪ちゃん先輩が食べて食べて~って言ったじゃないか!」
「佐々木と相川に言ったんだよっ!それくらいわかるだろっ!」
「何それ~、マジで雪ちゃん先輩ケチだなぁ~!」
「おい、山口。それくらいにしておけよ。さっき言われたこと忘れたのか?」
佐々木が目顔で合図をしたのを見て、相川が山口を椅子に座らせた。
4人掛けのテーブルに、佐々木の隣に雪夜、雪夜の向かい側に相川、相川の隣で佐々木の前に山口が座っている。
「はいはい、わかってますよ。あんまり雪ちゃんを興奮させるなでしたっけ?なに、雪ちゃん先輩って身体弱いの?」
佐々木に睨まれて、山口が軽く肩を竦 めると大人しく自分の買って来たA定食を食べ始めた。
「――あ、もしかして再履修してるのもそのせい?」
「そうだよ」
「なるほどね~……隙 ありっ!」
「あっ!おまっ……もぉ~っ!!」
雪夜がお茶を飲んでいる隙に、山口に唐揚げを一個取られてしまった。
油断も隙も無いっ!!
雪夜が情けない顔でむくれていると、笑いを堪えた佐々木たちによしよしと慰められた。
そして、微かに鈍い音がしたと思った瞬間、山口が呻きながらテーブルに突っ伏した。
相川と佐々木に足を思いっきり蹴られたらしい。
おかげでちょっとスッキリした!!
***
ともだちにシェアしよう!