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夜明けの星 3-7(夏樹)

 バンッと豪快に扉が開いて、浩二(こうじ)が入って来た。 「よう。や~っと休憩だよ。俺の昼飯は~?」 「え?」 「は?」  (いつき)と夏樹が揃って聞き返した。 「なんだよ、その顔は!?お~れ~の~、ひ~る~め~し~っ!」 「うるさいですよ、社長。食事中に大きな声出さないで下さい」  仕事モードの斎が浩二に冷たい視線を送った。  斎は浩二の会社を始め、いくつかの企業で企業カウンセラーをしている。  今日は浩二の会社に来る日だったので、夏樹は雪夜の卵焼きを披露するために斎と一緒に昼飯を食べていたのだ。 「俺は食事中じゃねぇし、そもそもここは俺の部屋(社長室)だぞ!?」  浩二は文句を言いながら、応接ソファに座っている夏樹たちの向かい側に座った。 「社長が変なこと言うからですよ。さっきまでランチミーティングだったんでしょ?」 「そうだよ?」 「じゃあもう昼飯食べてますよね?」 「食ったけど、まだ食える!だって今日は雪ちゃんが弁当作ったんだろ?」 「そうですけど」 「俺も食いたい!」 「仕方ないなぁ、貴重なんですから味わって食べて下さいよ!?」  夏樹はちょっとむくれながら、浩二に卵焼きを差し出した。  あ~あ、佐々木たちと食べるために雪夜にいっぱい持って行かせたから、俺の分は3切れしかなかったのにぃ~……っ! ***  昨夜のこと。  風呂上りにお茶を飲みながら、夏樹は(おもむろ)に雪夜に切り出した。 「ねぇ雪夜。明日大丈夫?再履修の科目は雪夜ひとりでしょ?」 「え?あぁ……はい。大丈夫ですよ!佐々木たちと離れるのは初めてってわけじゃないし……まぁ……何とかなりますよ!それに、留年してたらそれこそ完全に佐々木たちと離ればなれになってたんだから、少し離れるくらい全然平気ですよ!」  笑顔で答える雪夜だったが、明らかに無理をしている。  やけに強調された「全然平気!大丈夫!」という言葉は、自分自身に言い聞かせているように感じた。    そりゃそうだ。  大学に行くこと自体、数か月ぶりだし…… 「う~ん……あ!そうだ、明日の朝――」  一緒にお弁当を作ってみる?と提案すると、意外と雪夜がノッて来た。  夏樹がひとりで作っても良かったのだが、雪夜も卵焼きを作れるようになったので、せっかくだから一緒に。  どうしてお弁当なのかって?  何か一つでも楽しみがあれば……大学行くのも気分的にちょっとはマシかな~って……そんな単純な理由。  あとはまぁ……俺が雪夜の卵焼きを食べたかったっていうのもあるけど。  同じ大学なら……同じ年頃なら……もっとしてやれることがあるかもしれないのに……  今雪夜にしてやれることが、弁当を作ることくらいしか思いつかない自分がもどかしくて、ちょっと悔しい。  なんせ俺の大学時代は、ある意味まともな学生生活じゃなかったし……自分の学生時代のことは全然参考にならないのが困る。  だから……佐々木たちがちょっと羨ましい……  佐々木たちは、雪夜が喜ぶことを知っている。  どんなことで元気になるのか、どんなことを望んでいるのか……  ちゃんと知っていて、あいつらは“親友”という立場から上手く雪夜をサポートして、笑顔にしてやれるんだもんな~…… ***  ――今朝、普段よりも早めに起きた夏樹は、まだ完全に夢の中の雪夜をソファーに寝かせると、ため息交じりにうなじを搔きながら冷蔵庫の中身を調べた。  急に思いついた弁当作りだったので、今ある材料でどうにかしなければいけない。  ……あ゛~……弁当のおかずどうしよう……  野菜少ないな~……まぁ、雪夜が食べる分はあるかな。  相川たちには肉食わせときゃ何とかなるだろ!   「よし、作るかっ!」  両腕を上げて大きく伸びをすると、ありったけの材料をキッチンに並べた。 ***

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