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夜明けの星 3-8(夏樹)
別荘から戻ってしばらくしても、雪夜は安定していた。
様子を見るために人の多い場所に出かけてみたが、今のところ具合が悪くなることはなかった。
斎とも相談して、この調子ならひとまず大学に行くのは大丈夫だろうと言う事になって、雪夜は新学期からまた大学に通うことになった。
ただ、本人はあまり意識していないようだが、他人と接触することを極端に怖がっている様子が見られたので、夏樹としてはまだ少し心配だ。
緑川の事件の影響だと思うが、知らない人が近くに来たり、すれ違い様に肩や手などが触れたりすると、一瞬ビクッとして、表情が強張る。
そういう反応を面白がるやつがいるんだよな~……
斯 く言う俺もそうだけど……S心をくすぐられるっていうか……
佐々木たちがいれば雪夜を庇ってくれるだろうが、ひとりだと……あの容姿で怯えた様子を見せれば、調子に乗るやつが絶対に出て来るはずだ。
入学当初は噂になるくらい防犯ブザーを鳴らしまくっていたというのも、恐らくそういう奴らに目を付けられたからだろうし……
夏樹が心配なのは、絡まれることで何かトラウマが出て発作が起きるかもしれないということだ。
ブザーで相手がビビッて引いてくれればいいが、鳴らす前に雪夜が倒れてしまえば逃げられない。
斎も夏樹と同意見だった。
結局、二人で話し合って当面は白季組 の若い衆を護衛につけるということになった。
でも、あくまで雪夜には内緒なので、護衛係はギリギリまで正体を明かさないことになっている。
基本的には遠くから見守るだけだが、雪夜の身が危ないと思えば即座に助けに入るように言ってある。
そして、護衛係の仕事は他にもあった。
***
「――で、わかりましたか?」
夏樹は、テーブルの上のPCの画面に話しかけた。
「はいはーい、一応あの講義を受けてた学生の情報は全部集めたよ。雪ちゃんに絡んできてたやつらは講義の後に護衛係が捕まえて教育的指導をしてるから、もう大丈夫だよ」
画面の向こう側で、裕也がウインクをした。
夏樹、斎、浩二はそれを真顔で受け流し、揃って弁当に視線を落とした。
「なぁ、ナツ。唐揚げも食っていい?」
「あぁ、どうぞ~――」
「ちょっと!?聞いてる!?何で三人揃って唐揚げ食べてるの!?」
「ひーてまふよ 。むぐ……教育的指導でしょ?俺としてはそんな奴らに容赦する必要ないと思うけど……一応加減してくださいね(棒読み)」
「だ~いじょうぶ。今回は僕が優しく諭 してあげたから!まぁ、懲りずにまたちょっかい出そうとしたり、逆ギレして暴力を振るったりすることがあれば、今度は容赦しないけどね~」
「いや、そいつらが暴力振るう前に止めてくださいよ!?」
「わかってるよ~!」
護衛係の仕事は、雪夜にちょっかいを出したやつらの顔を小型カメラで裕也に送って、裕也がそいつらの個人情報を集めるための手伝いをすることと、あとでそっと捕まえてお仕置きをすること。
お仕置き大好きな裕也は、嬉々として今回の話に乗って来た。
「ただねぇ……絡まれてた雪ちゃんを助けに入ってくれた子がいるんだけど……その子がちょっと気になるんだよね~」
「どういう意味です?」
「一応ね、山口巧 って名前で登録はされてるんだけど、何だか情報が胡散臭い。たぶん、大学のデータがいじられてる。つまり、同業の可能性があるね」
「……組 関係ですか?」
「ん~どっちかっていうと、僕の同業かな。情報屋とか~探偵とか~……まぁそういう系統?組は関係ないと思うけど……ちょっと探ってみるよ」
「お願いします」
組 の方で何か揉めているという話は聞いていないので、恐らく雪夜に直接関係はないだろうとは思うが……雪夜に接触してきた相手の素性がわからないというのは気になる。
何もなければいいけれど……ただでさえ年度替わりでデリケートな時期にこれ以上雪夜のメンタルを乱すような問題を増やされるのはごめんだ。
「ところで、僕の分の卵焼きは~!?」
「ないですね」
「うそぉ~!!僕今日頑張ったのにぃ~!?」
「っていうか、裕也さん今まだ大学でしょ?」
裕也は護衛係と一緒に大学に潜入中だ。
大学生に混じっていても全然違和感がない裕也は、構内を好き放題動けるので結構楽しいらしい。
「まぁね~……あ、そうか!雪ちゃんから直接貰おうかな!」
「ダメですよ!?雪夜には護衛してることは秘密なんですからっ!!それに今は山口ってやつと一緒にいるんでしょ?そいつの正体がわかるまでは不用意に顔出さないで下さいよ!?」
「ちぇ~!わかってますよ~っだ!」
裕也が画面の向こうで頬を膨らませて顔をしかめた。
***
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