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夜明けの星 3-10(雪夜)

「雪ちゃん先輩みっけ!」  雪夜は後ろから近付いて来る声から逃れるように、足を速めた。 「ちょっと、雪ちゃん先輩!?何で逃げるんだよ!」 「逃げてない!急いでるだけだ」 「いやいや、まだ時間余裕っしょ!?」 「前の席取りたいから早く行くんだよ!」 「あぁ、雪ちゃん先輩は前じゃないと見えないもんね~!心配しなくても前に座りたがるのなんて、雪ちゃん先輩くらいだよ~?ははは」 「ぐぬぬ……っチビで悪かったなぁ!!」 「別に悪いとは言ってないよ~?ちっこくて可愛いじゃん」 「うるさいっ!!可愛いって言うなぁああ!!――」  あれから、なぜか雪夜は山口に絡まれるようになった。  山口がうざ絡みしてくるせいか、他のやつらが絡んでくることがないので、ある意味ラクではある。  初日に雪夜に絡んで来た連中は、なぜか次の講義からは目もあわせてこなくなった。  山口に犯罪と言われたのがそんなにショックだったのだろうか……  山口は不真面目そうに見えて講義はちゃんと出るし、何気によく気がつく。  雪夜がプリントを忘れてアタフタしているとさりげなくコピーを取って渡してくれたり、グループを作らなければいけない時はたいてい山口が上手く周囲と雪夜を繋いでくれる。  ……ムカつくけれど、いろいろと助けて貰っているのも事実だ。  相変わらず雪夜を先輩扱いはせず、しょっちゅうからかってくるので苦手なタイプであることには変わりない。  だが、佐々木たちに頼れない再履修科目の講義では唯一話ができる相手だし、一応助けて貰っているので、こいつはこういう奴なんだと諦めて適当にあしらうようにしている。  ……あしらえてない気もするけど! *** 「ねぇ、そろそろ雪ちゃん先輩もアドレス教えてよ~!何で俺には教えてくれないの?佐々木先輩はすぐに教えてくれたのに」  山口は、アドレスや住所など、やたらと雪夜の個人情報を知りたがる。  たしかに、急な休講の知らせや、雪夜が休んだ時とか連絡が取れる方が都合がいいのはわかっているが、何となく山口とは連絡先を交換したくなかった。  いろいろと助けてくれるし、そんなに悪いやつではない……と思う……  だけど、雪夜の中ではまだ山口は信用できる相手ではないので、出来るだけ距離を取っておきたいのだ。  緑川先生の時に勝手な行動をしてみんなに心配をかけてしまったので、人付き合いには慎重になっているのかもしれない。  というか、そもそも雪夜は人見知りが激しいので佐々木たちとこんなに仲良くなれたことの方が奇跡なのだ……  だから、佐々木たちには「話かけてくれるのは嬉しいけど、山口は苦手なタイプだから佐々木たちのような友達にはなれそうにない。講義以外ではあまり関わりたくない」と素直な気持ちを話してある。  そんな雪夜の代わりに佐々木が連絡先を交換した。  山口といる時に雪夜の具合が悪くなったら佐々木に連絡するようにと。 「何か用事があれば、佐々木経由で連絡取れるから別にいいじゃないか」 「いや、面倒臭いでしょ!?俺らの話に佐々木先輩を巻き込むのはどうかと思うけどな~……」 「聞かれてマズいような話なんてないだろ」  すでに佐々木経由で数回やり取りしているが、どれも講義に関する内容ばかりだ。 「え~?それはこれからするかもしれないだろ?」 「……何言ってんだ」  だいたい、話があれば講義で会った時にすればいいだけの話だ。  雪夜には、山口とわざわざ連絡先を交換してまで話すようなことなんて何もない。 「っていうか、雪ちゃん先輩と佐々木先輩って仲良過ぎじゃないか?もしかして、友達以上の関係……とかだったりして?」  山口が、ちょっと雪夜の顔を覗き込んで茶化して来た。  からかい口調で笑っているくせに、探るような目つきで見て来るのが気に入らない。  雪夜がイマイチ山口を信用できないのはこの目のせいかもしれない…… 「友達以上だよ」 「え!?」  自分で聞いてきたくせに、雪夜が真顔で答えると山口が少し焦った。 「佐々木と相川は俺の親友だからな」 「な~んだ、そういう……」 「――っ!?」  いつものようにのらりくらりと山口の戯言(ざれごと)(かわ)していると、不意にすぐ近くでボンッと破裂音がした。 ***

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