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夜明けの星 3-11(雪夜)

「ぅわっ!!なんだ?……こっちか?おーい、大丈夫ですか~!?――」  山口が音のした教室の窓から中を覗き込む。 「――っすか、気を付けて下さいね~!……な~んだ。実験に失敗したんだってさ、びっくりしたよ……な?って、あれ?雪ちゃん先輩?」  破裂音がした瞬間、心臓が跳ねあがった雪夜は、ヒュッと鋭く息を吸い込んだ。  そのまま息をするのも瞬きをするのも忘れて、しばらく立ち尽くした。  山口の声が遠い。  何か話しかけられているのはわかったが、雪夜はそれどころではなかった。    別荘から戻って以降、思いつく限りのトラウマ対策はしていた。  大きな音はもともと苦手だったので、爆発音はトラウマになっている可能性が高い。  だから、外に出る時はイヤーマフかイヤホンをするようにしていた。  それなのに……山口に話しかけられた際に何気なく外してしまった。  油断してた……外すべきじゃなかった……今更もう遅いけど……  周囲の反応を見る限りでは、恐らくそんなに大きな音ではなかったのだろう。  だけど、雪夜にしてみればすぐ真横で音がしたように感じた。  周囲の音が聞こえなくなり、耳鳴りがして破裂音が頭の中でリフレインする中、船から落ちた時の光景がチラチラと目に浮かんだ。  眩暈というか地面にぽっかり穴が開いて落ちていくような感覚に襲われる。  足元がぐらついて、慌ててその場にしゃがみ込んだ。  呼吸が乱れる……ダメだ、落ち着けっ!……落ち着かなきゃっ!!…… 「え、ちょっ……だいじょう……!?顔色……よ?あ、もしかし……具合わ……?雪……先輩?」 「さ……佐々……木……よんで」  途切れ途切れだが、何とか山口の言葉が聞こえてきた。  雪夜は山口に佐々木に連絡するように頼んだ。 「え、佐々木先輩に?あの、救急車とかの方がいいんじゃないの?」 「い……からっ……早くっ!」 「わ、わかった!」  山口がアタフタしながら携帯を取り出した。 「……あ、佐々木先輩?あの、雪ちゃん先輩の様子がおかしくて……え?あ、はい。めちゃくちゃ顔色悪くてなんか苦しそうなんだけど、救急車は呼ぶなって……は?触るな?いや、だって倒れそうなんだけど!?……わかりましたよ!このまま見てればいいんでしょ?はいはい!早く来て下さいね!?」  山口が通話を切ると、雪夜の顔を覗き込んだ。 「一応佐々木先輩に連絡取ったよ。すぐ来るって。何か雪ちゃん先輩にはって言われちゃったんだけど、あの、背中とか擦らなくて大丈夫?」 「だい……じょぶ……」  雪夜は山口の言葉を聞いて、佐々木に感謝した。  以前、緑川先生の前で発作を起こしてしまったことがある。  たぶん、今山口に触れられると、その時のことを思い出して余計にひどくなる気がする。 「え、ちょっと……雪ちゃん先輩!?あ~もう、何これ、どういう状況なんだ……過呼吸ってやつ?何で急に……っくっそ、どうすりゃいいんだよ!!……っ」  山口が雪夜の隣で頭を抱えてブツブツ言っているのが聞こえた。  ……どうすりゃいいって、今お前に出来ることはこの場を去ることなんだよっ!!  もう……本当にお願いだから……どこかに行って……  上手く呼吸ができない。  苦しくて頭がぼんやりして今にも気を失いそうになる。  だけど、山口の前で倒れたくない。  緑川先生の時のような失敗はもう二度と……ごめんだ。  でも、このままだと……ヤバい……  せめて……佐々木が来るまでは……  雪夜はグッと拳を握りしめて、辛うじて意識を保っていた。  朦朧とする意識の中で、船の事故と緑川先生に襲われた時の記憶が交互にフラッシュバックしてくる。  ――船から……オチル……息が苦しい……タスケテ……    ――手……トドカナイ……女の人……ダレ?  ――水……ツメタイ……ココハドコ……せんせい……    ――真っ暗……コワイ……ヒトリ……おれに……ナニシタ……ノ?  怖い……悲しい……困惑……切ない……苦しい……不安――  2つの記憶と感情が混ざりあって、もう何が何だかわからなくなっていた。  今は昼間だから周囲は明るいはずなのに、目の前が真っ暗になっていく。  あぁ……ダメダ……ナツキサン……タスケ…… 「雪夜――!」 「さ……き……?」 ***

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