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夜明けの星 3-14(夏樹)
斎は夏樹の顔を見るなり「お、さっきよりもいい顔してんな」と微笑んだ。
はい、泣いてたのバレてる。っていうか、泣けって言ったの斎さんだし!
とは言え、さすがに気恥しくてちょっと不貞腐れた顔で横を向いた。
「まったく、手のかかるやつらだな……」
斎が苦笑しながら夏樹の頭をガシガシと撫でた。
「……すみません」
「ちょっとは落ち着いたか?」
「はい……緑川 やっぱりぶっ〇したい」
「そうだな。でもそれは頭の中だけにしとけ」
「ぅ゛~~~っ!じゃあ、軽く手足折るくらいで……」
「こらこら。今更そんなことしても意味ねぇよ。それよりも……トラウマになってるのがわかったんだから、対処方法を考えてやらないとな」
「はい……」
「で、雪ちゃんは寝たのか?」
斎に言われて腕の中の雪夜を見る。
さすがに泣き疲れたのか、規則正しい寝息が聞こえていた。
「……眠ってますね」
「よし、そんじゃ向こうで話すか」
夏樹は雪夜の頬を軽く撫でて口付けると、夏樹の服を握りしめていた手をそっと外し、ベッドに寝かせて部屋から出た。
***
「お~い、今喋っても大丈夫~?」
夏樹たちが出て来るのを待っていたかのように、クマのぬいぐるみが話しかけてきた。
「はい、雪夜は寝てるので大丈夫ですよ。動きありましたか?」
一応声をひそめてはいるけれど、喋っていいか聞いてくるくらいならそれこそ普通に電話をかけてくればいいのに……と思いつつもぬいぐるみに向かって返事をした。
「うん、あったよ~!や~っと動いてくれました」
裕也は、雪夜の護衛をしつつ、雪夜に接触してきた『山口巧 』が何者なのかを探ってくれていた。
大学に登録されている『山口巧』の情報は全てダミーだったが、裕也はすぐに『山口巧』の正体をつきとめた。
だが、山口は雪夜をからかう程度で特に気になる動きを見せなかったので、何の目的で雪夜に近付いたのかという肝心なところがなかなか見えてこなかった。
***
「ヤングが上手く聞き出してくれたよ。いや~さすがだねぇ――」
今回、山口は雪夜の発作に初めて立ち会った。
そのせいか、佐々木に電話をしてきた時、山口はだいぶテンパっていたらしい。
動揺している時は、ボロが出やすい。
だから夏樹は、ちょっとエサをまいてみることにした。
佐々木から電話があった時に、夏樹が雪夜を連れて帰った後、山口に何か聞かれたら夏樹と雪夜の関係をそれとなく仄めかしてみろと言ってあったのだ。
「はっきりとヤングの口からなっちゃんたちが恋人同士だとは言ってないんだけど、話に食いついて来た。で、ボロをだしたよ。」
佐々木が雪夜のところに着く直前、裕也がこっそり佐々木に接触して盗聴器を渡していたので、夏樹が去った後の佐々木と山口の会話も裕也が聞いていたのだ。
「ボロってどんなだ?」
斎がコーヒーを入れたマグカップを夏樹に渡しながら、隣に座った。
でっかいクマのぬいぐるみを囲んでコーヒーを飲む男二人……傍から見れば絶対怪しい……
なんで斎さんは平気な顔していられるんだ……?
「え~とね、聞いて貰った方が早いかな。会話自体は短いから――」
そう言うと、裕也が録音してあった佐々木と山口の会話を流した。
「――へぇ~……佐々木先輩と住んでるって、山口はどうしてそう思ったんだろうねぇ?」
斎がスッと目を細めてふっと笑った。
「雪夜は山口には名前以外の個人情報を明かしていないはずです」
「ってことは……」
「やっぱり山口は雪夜たちの跡をつけてたやつと繋がってますね」
「そういうことになるよな~――」
***
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