301 / 715

夜明けの星 3-15(夏樹)

 それは、山口が雪夜に構ってくるようになってしばらく経った頃。  まず、佐々木が違和感に気付いた。 「なんか……見られてる気がする」 「ん?護衛係に?」  佐々木には山口の狙いがハッキリとつかめていないことを話してあった。  だが、「ずっと見られてるのは居心地が悪い」と佐々木が言うので、護衛係は基本的に雪夜が佐々木たちといる時には傍を離れている。  その代わりに、佐々木たちが山口の言動に注意し、気になることは夏樹に報告したり、なるべく雪夜と山口を二人っきりにさせないようにしたりと気を配ってくれていた。 「夏樹さん関係のはもう顔合わせしてるからわかってるんだけど……帰り道とかに何か視線を感じる……」  佐々木と相川は、雪夜に内緒で護衛係と顔合わせをしていた。  もし雪夜に何かあった時に味方がすぐにわかる方が都合がいいからだ。 「誰かにつけられてるってことか?」 「たぶん……振り返ってもそれらしいのは見えないんだけど、何か……ん~……よくわかんないけど変な感じがするんだよな~……」  山口の方にもずっと見張りを付けているので、もし山口が佐々木たちを尾行するようなことがあればわかるはずだが、そんな様子はない。  それなのに佐々木が視線を感じるということは…… 「わかった。ちょっと調べてみる。もしお前らだけの時に何かあったら構わずにブザー鳴らせよ」  裕也お手製の防犯ブザーは、佐々木たちにも渡してあった。   「りょーかい!」  ――と、一時軽く緊張感の漂う状態になったのだが、意外にも佐々木たちを尾行しているやつはあっさりと見つかった。  護衛係が言うには、驚くほどに尾行が下手だったらしい。  一応、佐々木たちからは姿を隠せていたらしいが、なんせ動きと服装が怪しすぎて何回も職質をかけられていたとか……  山口と違って、尾行していたやつの身元はすぐに割れた。  普段の依頼は浮気調査や迷い犬猫の捜索が主という、しがない探偵だった。  危険度は低そうだが、逆になぜそんな奴が佐々木たちをつけているのかがわからない。  それに、山口と接触する様子も連絡を取っている様子もなかった。  すぐに捕まえても良かったのだが、雪夜を傷つけるような素振りは見られなかったので、とりあえずそいつにも張り付きつつ、しばらく泳がせてみることにした。   ***  夏樹は雪夜から「やけに山口が個人情報を聞いてくる」と聞いた時に何となく嫌な予感がしたので、雪夜には大学が終わると佐々木たちと一緒に一旦佐々木の家に帰るようにしてもらい、夏樹は佐々木の家に迎えに行くようにしていた。  雪夜が佐々木の家に帰っていることを知っているのは相川と、跡をつけていた男だけだ。  それなのに山口は、雪夜は佐々木と一緒に住んでいると思っていた。  つまり、尾行していたやつと山口は繋がっているということだ。    それにしても、なぜ尾行していたにも関わらず、夏樹が迎えにきていることには気付かなかったのか?  もちろん夏樹も佐々木の家に入る前に周囲を警戒はしていたが、そもそも尾行していた探偵は雪夜が佐々木の家に入るところを確認するとすぐに引き上げていたらしい。  ポンコツ過ぎる……やる気あんのか?  (うち)の連中がそんなことしたら、確実に愛ちゃんのお仕置きコースだぞ……  それはともかく、もしかしたら山口の狙いが夏樹の方だという可能性もあると思い、雪夜と夏樹の関係を悟られないようにそんな回りくどいことをしていたのだが、どうやら狙いは雪夜の方らしい。  (うち)関係じゃないとしたら……  山口が接触してきた時に、斎が思い当たることがあると言っていたが、実は夏樹も一つだけ……思い当ることがあった。  探偵を使ってまでも雪夜の住所を確認したがる人物―― 「やっぱり……依頼人は……」 「まぁ……そうだろうな」  斎と顔を見合わせ、揃って眉をひそめるとため息を吐いた――…… ***

ともだちにシェアしよう!