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夜明けの星 3-16(夏樹)

「雪夜の様子は?」  翌朝、佐々木から電話があった。  夏樹もかけようと思って携帯を手に取ったところだったので、ちょっと苦笑する。  いつもながら、いいタイミングだな…… 「ん~……だいぶ落ち着いたけど、念のために今日は休ませるよ」 「そか。……なぁ、山口だけど、今日接触してきたらどうしようか?」 「そうだなぁ~……山口がどこまで事情を理解して雪夜に近付いて来てるのかわかればいいんだけどな……」 「こっちが山口の正体に気付いてるってことをバラしていいなら、直接話聞き出すけど?」 「……いや、まだ匂わす程度にしとけ。こっちも依頼主の目星はついてるけど、目的がイマイチ読めないから……もうちょっと泳がせたい」 「目星はついてるんだ?」 「あぁ、雪夜の――」  その時、寝室の方から雪夜の叫び声がした。 「今の声って……」 「悪い、雪夜が起きた。それじゃそういうことで!」 「はいよ!」  電話を切りながら寝室に入ると、ベッドの隅で丸くなっている雪夜がいた。 「おはよ。どうしたの?雪夜、大丈夫?」 「な……つき……さん?」 「うん、顔見せて。怖い夢見ちゃった?」  背中をトントンと撫でると、雪夜が恐る恐る顔を出した。 「……なつきさん……」 「なぁに?」 「……っ」  夏樹の顔を確認すると、少しほっとした顔をした後、何か言いたげに口を開いてすぐに閉じた。 「……雪夜、俺に何か言いたいことがあるんじゃないの?我慢しなくていいから言って?」 「っ!?……っちが……おれ……っ」  夏樹の言葉にヒュッと息を呑んだ雪夜は、なぜか激しく動揺して小さく頭を振りながら後退(あとずさ)った。  んん?え、ちょっと待って!俺今そんな怯えられるようなこと言った!?  雪夜の様子に夏樹も動揺して、慌てて自分の発言を振り返った。  が、思い当たることはない。 「雪夜?怒ってるわけじゃないから大丈夫だよ。おいで」 「ちがっ……ごめ……なさい……っごめんなさい!ごめんなさいっ……」 「雪夜……どうしたの?」  夏樹が手を差し出すと、更に怯えてベッドの隅で頭を抱えた。 「いや……いやだいやだいやだっ……やめっ……っ!!」  お……っと、これは……だいぶパニクってるな……  トリガーになりそうなことなんて言ってないはずだけど…… 「雪夜~、こっち見て?落ち着いて、俺だよ。わかる?雪夜の夏樹さんだよ~?」 「ごめっ、なさ……っ……!」  雪夜は夏樹の呼びかけに答えず、怯えた目で宙を見つめて謝り続けていた。  ……ダメだこれ、俺を認識してないな……怯えてるんだ? 「はいはい、ちょっと待ってね~」  夏樹は、表情に出さずに胸の中でそっと眉をひそめると、夏樹から逃げようともがく雪夜をタオルケットごと抱き込んで背中をトントンと撫でながら、斎に連絡を入れた。  斎は電話に出ると夏樹が何か言う前に、パニック状態の雪夜の叫び声を聞いただけで「すぐ行く」と言って通話を切った。 「や……ぃやだぁああああああっ!!たすけてっ……!もうやだぁああ!!」 「雪夜っ!ゆ~き~やっ!怖くないよ、大丈夫。俺しかいないよ」 「やぁっ……んっむ……っ」  携帯をベッドサイドに置くと、泣き叫ぶ雪夜を抱きしめて口唇を重ねた。  夏樹を認識していない状態で舌を入れると噛まれるので、様子を見ながら少しずつ長く深く…… 「……んっ……んん?……っは……っふぁ」  抵抗していた雪夜の身体から力が抜けたのを確認すると、ゆっくりと口唇を離して雪夜の目を覗き込んだ。 「ん?俺がわかる?」 「ぁ……な、っ……きさん……?」 「うん、ちゃんと俺を見てごらん」    酸欠で朦朧としている雪夜が、夏樹の顔を見た。 「よしよし、もう怖くないよ、大丈夫……」 「……なつきさ……っ」 「なぁに?」  タオルケットの中で雪夜が手を動かしたので、少し緩めて手を出してやる。  夏樹のことを認識してしまえば、とりあえず暴れることはない。  手が自由になった雪夜は、夏樹にギュっと抱き着いて安堵の息を吐いた。   「ごめんね、起きた時にいなかったから寂しかった?」 「ん……」  雪夜は返事の代わりに夏樹の服を少し引っ張った。  ちょっとご機嫌斜め。  だが、夏樹が頭を撫でると、雪夜は安心した顔でふわっと微笑んで目を閉じた。    病院でパニックになった時ほどひどくはないけど……これはちょっと……  ここまでひどいパニックを起こしたのは入院していた時以来だったので雪夜の叫び声がやけに耳にこびりついていた。    『たすけて……』か……  パニックを起こしてる時は、御守り(指輪)も役に立たないな~……    夏樹は、雪夜をあやしながら静かに息を吐いて軽く天を仰ぐと、やるせない想いと雪夜を胸に抱きしめたまま、ベッドにそっと倒れこんだ――…… ***

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