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夜明けの星 3-20(雪夜)
「山口、俺らに聞きたいことがあるんだろ?回りくどいことはやめてさっさと言えよ!いい加減ウザい!」
「ちょ……佐々木先輩、顔が怖いっす!」
「ぁあ゛!?」
佐々木がここまであからさまに不機嫌な顔を他人に見せるのは珍しい。
「わぁ~!すみませんっ!ごめんなさいっ!怒らないでっ!?」
「いいから早く言えっつってんだろっ!!」
「あ~……う~ん……わかった……じゃあ言うけど……」
困った顔で少し斜め上を見ながら頬をポリポリと掻いていた山口が、ようやく腹を決めたように息を吐いた。
「この間迎えに来てくれてた人と雪ちゃん先輩ってどういう関係?……っすか?」
「……」
山口の言葉に、全員が口を閉じた。
しばしの静寂。
やっぱりそのことか……さっき講義の前にも言ってたしな~……
「それについては、あの時、ちゃんと答えたはずだけど?」
佐々木が、さも面倒臭いという顔で大きく息を吐いた。
「あの時佐々木先輩が言ってたのは、あの人が雪ちゃん先輩のお兄さんじゃないってことっすよね?……じゃあ結局誰なんすか?」
「……なんでお前はそんなことが気になるわけ?」
「え?いや、そりゃ~……だって、普通気になるっしょ?突然あんな……カッコいいモデルみたいな人が迎えに来たら……」
山口がちょっと焦り気味に取ってつけたような理由を口にする。
「知りたきゃ自分で聞いてみろ。今日迎えに来るから」
「……え!?俺が!?」
「他に誰がいるんだよ?二人の関係について知りたいのはお前なんだろ?」
「そ、そうっすけど……」
直接聞けと言われて、山口が動揺した。
自分が知りたいって言ったんだから、そこは喜ぶところじゃないのか?変なやつ……
***
夏樹との待ち合わせに、細かい指定場所は必要ない。
たいてい、女の子の人だかりを探せば、そこにいるからだ。
雪夜は、大学の前で女の子たちに囲まれていた夏樹に小さく手を振った。
うんざりした顔をしていた夏樹は、少し離れた場所から合図を送ってきた雪夜たちをチラッと見ると、女の子たちに作り笑顔で「連れが来たから、ごめんね」と言ってさっさとこちらに歩いて来た。
うん、もうね……女の子に囲まれてる夏樹さんに声をかけるのも……だいぶ慣れましたよ!
「すげぇな……あの人やっぱモテるんだ。何人に囲まれてたんだ?」
隣で山口が感嘆の声をあげた。
「ふんっ!」
雪夜は山口の言葉にイラッとして、思いっきり山口の足を踏みつけた。
慣れたとは言え、夏樹が女の子たちに囲まれているのを見るのは気分のいいものではない。
嫉妬……ではないと思うけど……胸がモヤッとして、何だかちょっと切なくなる。
「痛っってぇ~!?ちょ、え、何!?急に何なんだよ!?」
「うるさいっ!ちょっと黙れ!」
別に、何でもない!ただの八つ当たりだよっ!!でも謝らないもんっ!
「え~何それ?俺なんかし……うわっ!?――」
プイっと顔を背けた雪夜を覗き込もうとしていた山口の顔が、急に遠ざかった。
夏樹が山口の襟首を掴んで雪夜から引き離し、地面に転がしたのだ。
「雪夜、お疲れ様!具合はどう?今日は大丈夫だった?」
「夏樹さん!」
夏樹は、何事もなかったかのように話しかけてくると、雪夜の頬を両手で包み込んでふわっと微笑んだ。
先ほどの女の子たちに向けていた作り笑顔とは違う、いつもの優しい微笑みにほっとする。
夏樹の笑顔に見惚れていた雪夜は、夏樹に「雪夜、そんなに見つめられるとキスしたくなっちゃうんだけど?」と苦笑されて慌てて視線を逸らした。
「……あ、あの、はい!今日は大丈夫でした!」
「うん、顔色は良さそうだね。手は?ノート取れた?」
雪夜の顔を撫でていた夏樹が、今度は雪夜の絆創膏だらけの手を取ってそっと手のひらを撫でた。
「あ、えっと……まだちょっと痛かったので……あんまり……」
「……そっか」
「あの、でも、また手が治ったら佐々木たちにノート見せてもらうから大丈夫です!」
「そかそか、なら良かった――」
そう言いながら、夏樹がさりげなく雪夜の手のひらに口づけた。
さりげなさすぎて、一瞬何が起きているのかわからなかった。
あれ?今夏樹さん手に……ちゅうした?
「……~~~~っ!?」
どういう反応をすればいいのかわからず、雪夜は俯いた。
あ~もう!顔が熱いぃいい~~!!
夏樹さんってば、こんな目立つところで、何でそういうことをサラッとしちゃうかなぁ~……
「雪夜、大丈夫?顔赤いけど」
「だだだ大丈夫ですっ!!」
誰のせいですかっ!夏樹さん、笑い堪えてるのバレバレですよっ!?
***
「あの~……え、っと……お邪魔しちゃってすみませんが、俺どうしたらいいんすか?」
夏樹に転がされて放心状態だった山口が、ようやく立ち上がって所在なげに呟いた。
その声を聞いて、夏樹が小さく眉間に皺を寄せた。
あ、そうだ……夏樹さんに山口がここにいる理由話してなかった!
あれ?夏樹さん、なんか機嫌悪い?……どうしよう……
「ぁ……夏樹さん、あの……」
雪夜が不安そうに見上げると、夏樹は軽く眉を上げて「大丈夫だよ」と安心させるように微笑み、雪夜の頭をポンポンと撫でると山口に向き合った――……
***
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