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夜明けの星 3-21(夏樹)

「山口君……だっけ?先日はどうも。雪夜が世話になったね」  夏樹は雪夜の腰に手を回し、抱き寄せながら山口を見据えた。 「は、へ?あ、ふぁい!いえ、俺はそんな世話と言うほどのことなんてしてないっすけど……」  正面から夏樹に見つめられた山口が、顔の前で手をぶんぶん振りながら視線を泳がせた。 「きみは佐々木たちに連絡してくれたんだろう?あと、雪夜にいてくれた。もしあの時きみが触ってたら、もっと発作が酷くなってたかもしれないからね。ありがとう」  まぁ、そもそもお前がいなけりゃあんなに酷くならなかったんだけどな!  それでも、下手に雪夜に触れなかったことだけは感謝してやるよ! 「……え?……」 「それで、今日は俺に何かご用かな?」 「……あ、はい!……え、どうしてそれを?」 「雪夜たちのきみがこの場にいる理由なんて、それくらいしかないだろう?で、何の用だ?」  山口に言葉の意味を考えさせないように、矢継ぎ早(やつぎばや)に話す。  本当は、裕也経由で雪夜たちと山口の会話は全て把握済みだ。  そもそも、山口が雪夜に夏樹のことで探りを入れて来るということは予測出来ていた。  そのため、佐々木には今朝、山口が何か聞いてきたら夏樹が相手をするから連れて来いと伝えておいたのだ。 「……えっと、その……用っていうか、聞きたいことがあるだけで……」 「山口君、ひとつ教えてやる。俺は雪夜以外の奴にはだよ」  山口の煮え切らない態度に、夏樹がにっこりと笑って忠告をした。 「ぅえ!?あ~~待って待って、えっと、雪ちゃん先輩とはどういう関係なんっすか!?」  山口が、本日何度目かの質問をした。 *** 「……俺と雪夜の関係ねぇ……赤の他人にそれを言う必要がある?」 「ぅ゛……え~と……そうっすよね~。……いや、あの、俺も別にノリっていうか、何となく気になったから聞いただけで……他人様のプライバシーを侵害しようだとかそういう意図は全然なくて……」  どの口が言ってんだか……そんな意図がないならしつこく聞いてくるなよ!    今ここで山口を捕まえるのは簡単だが、それは裕也に止められている。  今回は、とりあえず山口が知りたがっている情報を与えることで、その後の動きを見ることが目的だ。  夏樹は苛立ちを隠し、表情を変えずに山口を見た。  知りたがってる情報ね…… 「雪夜とは恋人同士だ。一緒に住んでる」 「あ、なるほ……ぅえ!?こ、恋人!?」  山口があんぐりと口を開けた。 「きみが知りたかったのはそういうことだろ?」 「えっと……え、ええ!?……じゃあ、あの……二人は付き合ってるってこと?その……ただの同居人とかじゃなくて?」 「同居じゃなくて、同棲だ。恋人同士なんだから付き合ってるに決まってるだろう?」 「で、ですよね……」 「聞きたいことはそれだけかな?」 「はへ?あ、は、はい」 「山口君、きみは講義ではなにかと雪夜を助けてくれてるらしいけど……正直、他人様のプライバシーに土足で踏み込むような無神経な人間には、必要以上に雪夜に関わってもらいたくない。先日きみも見たように、雪夜は身体が弱いし、いつ発作が起きるかわからない状態なんだ。もしきみが雪夜を傷つけるようなことがあれば、俺は絶対に許さないから。ね」 「……っぁ……はぃ」  夏樹が爽やかな笑顔で言い聞かせると、顔面蒼白になった山口が頬をピクピクと痙攣させながら、なんとか声を絞り出した。   「声が小さいな」 「っ!?はいっ!わかりましたっ!」 「お、いいねぇ。やっぱり若者はそれくらい元気じゃないとな。じゃ、。佐々木たちも、もう帰るのか?」  夏樹は山口の頭をガシガシと撫でると、佐々木たちを見た。   「ん~?あぁ、俺らはゼミの方に顔出してから帰るよ」 「そうか、わかった。それじゃまた明日。ありがとな」 「はいよ~!雪夜、また明日な!」 「雪ちゃん、また明日~!」 「あ、うん!二人とも、またね~!」  夏樹は、佐々木と相川に頭を撫でられている雪夜の鞄を持つと、空いた手で雪夜を自分の腕の中に抱き取った。 「はいはい、また明日も会えるんだから!もう帰るよ~!」 「はーい!」 「嫉妬深いと雪夜に嫌われるぞ」 「佐々木うるさい!じゃあな!」  からかい口調の佐々木に目顔で合図を送りながら、いつものようにじゃれてその場を後にした――…… ***  (以下、佐々木視点) 「――っはぁ~~~……怖かったぁ~!!佐々木先輩たち、よくあの人と普通に話せますね~!?」  夏樹たちの背中が小さくなってから、ようやく山口は大きく息を吐いた。  どうやらずっと息を詰めていたらしい。 「あ?夏樹さんのことか?なんでだ?」 「いやいやいや、なんでって……すごい迫力じゃないっすか!?」 「そうか?別に普通だろ」 「絶対普通じゃないっすよ!圧が凄かったし、俺あの人に頭つぶされるのかと思ったっすよ!?」 「ってことは、お前嫌われたんじゃね?あの人、雪夜に害があると判断した相手には容赦ないから」 「げ……俺、嫌われたんすか!?だって……」  その時、山口の携帯が鳴った。  話しながら画面を見た山口の顔が一瞬険しくなったのを佐々木は見逃さなかった。 「えっと、なんでしたっけ?ああ、俺が嫌われたってことでしたよね?」  山口が着信を無視してそのまま話しを続けようとする。  俺らの前じゃ出られない相手……? 「電話……出ないのか?」 「あ~、はい、大丈夫です」 「出ろよ。俺らもそろそろゼミに行くし。んじゃ、またな」 「え、あ~……はい、じゃあまた!」  山口は、まだ佐々木たちと話したそうにしていたが、携帯が鳴りやまないので結局佐々木たちに別れを告げて静かな場所を探しに行った。  佐々木はそれを見ながら、盗聴器が仕込んである防犯ブザーに向かって、 「今の電話気になる」  と短く報告した。  これであとは裕也がどうにかしてくれるはずだ――…… ***  

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