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夜明けの星 3-23(夏樹)

「で、ポンコツ探偵が叔父ってことで、別方面から調べてみたところ、どうやらポンコツ探偵は山口の祖父の再婚相手の連れ子らしいよ」 「それって、つまり他人ですよね?」 「そうだね。血の繋がりはない。それに、祖父はその再婚相手とも離婚してる。だから、調べてもなかなか関係性が見えなかったんだよね~」  繋がりはないが、山口の父はポンコツ探偵を弟として可愛がり、離婚後も交流はあったらしい。  ポンコツ探偵は、探偵事務所を構えたものの、あまりにポンコツ過ぎて、浮気調査や迷子の犬猫を探す依頼くらいしかなく、しかもその依頼さえろくにこなせないような有り様だったのだが、山口が仕事を手伝うようになってから依頼数が増えたとか。  山口は子どものころからパソコンを触るのが好きで、ちょっとしたハッキング程度なら出来るようだ。(裕也曰く、山口程度のレベルの子はいっぱいいるらしいが……)  現在、ポンコツ探偵事務所がやっていけているのは、山口のおかげだと言ってもいい。  とはいえ、山口が本格的に手伝うようになったのは最近だし、怪しい仕事には手を出していなかったので、裕也のチェックリストからは外されていたのだ。 「大学の『山口巧』のプロフィールを弄ったのも、山口本人だね。まぁ、あれくらいなら簡単に出来ちゃうからね。ちなみに、本名は~……『滝川巧(たきがわたくみ)』、ポンコツ探偵は『山根士郎(やまねしろう)』って言うんだけど……」 「ややこしいので、でいいです」 「オッケー!さっきの山口の言葉からもわかる通り、ポンコツ探偵との連絡は、わざわざ父親経由でしてたみたい。俺らの存在にも薄々気付いてたみたいだし、山口もまぁまぁ勘は良さそうだね」  叔父はポンコツでも、山口の方は少しはマシということか…… *** 「で、こっからが本題ね。今回の依頼についてだけど……山口の父と依頼者が知り合いだった。高校時代の先輩後輩だね。山口の父が弟のポンコツに調べるように頼んで、それを山口が手伝ってたって感じらしいよ」  裕也の報告を聞いて、夏樹は大きなため息を吐いた。  何だかややこしいなぁ~……  別にポンコツを間に挟まなくても、最初から山口に調べさせれば良かったんじゃないのか?  そんなことより…… 「やっぱり、依頼主は雪夜の……」 「うん、だね。まぁ、僕も依頼主は雪ちゃんの家族だろうとは思ってたけどね~」  斎さんも同じ考えだ。  夏樹関係じゃないとすれば、残るはもう雪夜の家族しかいないからな……  雪夜は以前、家族との仲は悪くないと言っていた。  義理の兄二人は、実母よりも心配性だとも。  だが、雪夜と同棲を始めてから一年経つが、日常生活の中で雪夜の口から家族の話が出たことはないし、連絡を取っている素振りもなかった。  夏樹も頻繁に愛ちゃんと連絡を取るわけではないが、それでも年に数回は連絡を取り合う。   「今更何で……」  いや、家族なんだから、今更も何もないんだけど……でも…… 「雪ちゃんは年末年始も家族と連絡取ってないの?」 「はい……」 ***  ――雪夜が入院した時、夏樹は雪夜の家族に連絡をするべきか迷った。  一時的とはいえ、心臓も停止していたわけだし、本来ならば連絡すべきだ。  だが、事件の内容が内容だ。  そもそもあのパーティー自体がシークレットパーティーなので、あの船で起きたことは全てマスコミにも伏せられている。  つまり、爆発が起きた事実はなかったことになっているので、雪夜の家族に説明するならば、他の事故を捏造するしかない。  悩んだ夏樹は、ひとまず、雪夜にどうしたいか相談することにした。 「うちには連絡しなくていいです。正月にメール送っておけば大丈夫です。また元気になったら顔見せにいけば……っていうか、俺大学に行き始めてから実家に帰ってないですよ」 「え、一回も帰ってないの?」 「はい。義父は忙しい人で、年末年始も関係ないですし、兄たちは海外に行ってますし、母も特に何も言ってこないので……俺も去年とかはずっとバイトしてましたからね!」  病院で目を覚ました雪夜は、夏樹の話を聞くと、そう言って軽く笑った。  その後、入院中はずっと不安定で、ちゃんとした話をできる状態ではなかったので、何となくそのままになっていた。 *** 「――あ~まぁね、あの事故のことは確かに説明できないよねぇ~……」 「俺……近いうちに、一度雪夜の家族に会いに行こうと思います。事故のことは話せませんが、俺が雪夜と同棲していることは、近日中に依頼主に伝わるでしょうからね……」 「あ~……うん、そうだね。……あのね、なっちゃん。僕、なっちゃんに言ってないことが――……」 「え?」  裕也が何か言いかけた時、雪夜が小さく唸った。   「あ、ちょっと待ってくださいね。雪夜、どした?」 「ぅ゛~~……っ」  怖い夢でも見たのか、雪夜が寝惚けながら泣き出した。 「すみません裕也さん、話の続きはまた今度でいいですか?」 「はいはーい!それじゃ、おやすみ」 「はい。すみません、おやすみなさい」  夏樹は話しを切り上げると、雪夜を抱き上げて寝室に向かった――…… ***

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