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夜明けの星 3-25(雪夜)

「雪夜!」 「雪くん、こっちこっち!」  山口に引っ張られるまま、大学の裏門に連れて来られた雪夜は、自分を呼ぶ声に思わず眉をひそめた。  この声って……いや、でもまさか…… 「雪く~~~ん!会いたかったよぉ~!」  雪夜が考え込んでいると、走って来たその人に思いっきり抱きしめられた。  胸元に抱きこまれているので相手の顔が見えないが、この抱きしめ方には覚えがある…… 「え……ちょ、もしかして、しん兄さん!?」 「もしかしてって何だよ?僕以外にいないだろう?」 「だって、なんで……っていうか、しん兄さん、苦しい~~!  力が強いうえに、顔を胸に押し付けられているので息が出来ない。 「こら、慎也。ちゃんと力加減しないか!雪夜が苦しいって言ってるぞ!」  雪夜がもがいていると、横から呆れたような声がした。 「おっと、ごめんごめん。久々に会ったから思わず……」 「まったくおまえは……ほら、雪夜、大丈夫か?」 「た……ゲホッ……たつ兄さんまで!?」  なんとか解放されて咳き込みながら、もう一人の人物を見上げる。 「しん兄さんも、たつ兄さんも、なんでここにいるの!?」  そこに立っていたのは、雪夜の兄の達也(たつや)慎也(しんや)だった。  二人は、雪夜の母の再婚相手である、上代隆文(かみしろたかふみ)の連れ子だ。  だから、雪夜とは血の繋がりはない。  が、長兄の達也も次兄の慎也も、雪夜のことを本当の弟のように大切にしてくれている。 「おまえを迎えにきたんだ」  眉間に皺を寄せた不機嫌顔の達也が、腕を胸の前に組んで雪夜を見下ろした。 「迎えにって……」 「とりあえず、帰るぞ」 「え、ちょっと待って下さい!俺、まだ講義が……」 「今日は休め。兄弟の久々の再会なんだから!」 「えええ!?せめて講義が終わってからに……」 「ダメだ!いいから乗りなさい!」 「っ!?」  義理の父は仕事が忙しいせいでほとんど家にいなかったため、雪夜にとっては10歳上の達也が、ある意味父親代わりだった。  とても頼りになるのだが、口調や態度が威圧的なところがあるので、実は少し苦手だ。  雪夜のことを可愛がってくれているし、口うるさく言うのも心配してくれているからだとわかってはいるのだが……達也に命令口調で言われると、どうしても委縮してしまう…… 「……ぁの……はぃ……ごめんなさい……」 「あ~もう、達也兄さん、雪くんが怖がってるじゃないか~!久々に会うんだから、もうちょっと優しく言わないと~!」 「なっ……!?私は優しく言ってるだろう!?」  慎也に非難されて、達也が少し狼狽えた。  本人は本当に優しく言っているつもりなのだろう……。 「……達也兄さん、それじゃモテないよ?」 「うるさい!それは今関係ないだろう!?ほら、行くぞ!」  委縮して固まっていた雪夜は、慎也に抱えられるようにして車の後部座席に押し込まれた。 *** 「あぁ、ご苦労。もう行っていいぞ。このことは他言無用だ、いいな?」  達也が、まだいたのか。という顔で山口を見た。 「口止め料は?」 「なんだと?」 「他言無用にして欲しいなら、口止め料貰わないと」 「ちっ……ほら、これでいいか?」  達也が苦々(にがにが)しい顔で財布から数枚のお札を出し、山口に渡した。 「ほいほい、毎度~!」  山口は達也から受け取ったお札を数えてにんまりと笑った。 「早くうせろっ!」  達也はそんな山口を侮蔑するような目で見ると、山口に向かってシッシッと犬を追い払うような仕草をして車に乗り込み、タイヤを軋ませながら方向転換をすると、猛スピードで走り去った――…… ***

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