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夜明けの星 3-26(佐々木)

 いくら待っても雪夜が来ないので、講義は相川に任せて佐々木は裕也に連絡を入れた。  裕也は佐々木から連絡が来るまで、雪夜がいなくなっていることに気づいていなかった。  佐々木たちといる時には、裕也たちは傍を離れている。  それが仇となってしまった。 「今って盗聴出来ますか?」 「ちょっと待ってね~……あ、聞こえた!え~と……誰かと話してるみたい」 「場所はわかりますか?」 「場所はね~……あ、裏門の辺りかな?」 「わかりました!そっちに向かいます!」 「僕らも行くよ!」 「お願いします!」  山口が大学に来なくなってからというもの、山口の代わりに護衛係が堂々と雪夜の傍につくようになったので、裕也はあまり大学には来なくなった。  そもそも、他の仕事もあるのだから、常に雪夜についているのは無理がある。  だが、今日はたまたま大学の近くに来ていたらしいので、裕也も来てくれるようだ。    良かった、裕也さんも来てくれるならどうにかしてくれるはずだ……  護衛係と佐々木だけで対処できる問題なのかわからないので、若干不安だったのだ。  佐々木が裏門に着く直前、車の走り去る音を聞いた。  そして、裏門の近くに、山口が立っているのが見えた。  もうそれだけで嫌な予感が胸を(よぎ)った。 *** 「山口!!お前、休んでたんじゃ……いや、それよりも、雪夜知らないか?」 「あれ~?佐々木先輩じゃないっすか。そんな怖い顔してどうしたんですか?」 「どうしたんですか?じゃねぇよ!雪夜を知らないかって聞いてんだよ!!」 「え、佐々木先輩と一緒にいたんじゃないんですか?だって、今って確か講義中っすよね?」  山口がいつものヘラヘラ顔で答える。  確証はない。でも胸がざわつく……こいつ絶対何か知ってる!! 「雪夜をどうしたんだ?」 「俺はっすよ?」 「山口……俺の特技教えてやろうか。だ」 「え?」 「今の言葉は嘘だろ」 「いやいや、ホントっすよ!?」 「お前はさ、ホントに演技が上手いよな。でもな、クセっていうのはなかなか抜けないもんなんだよ。特に焦ってる時は、素が出やすい」 「ちょ、佐々木先輩なんか怖いっすよ~!?もしかして、あれっすか?エスパーとか?」  山口が頬を引きつらせながら茶化す。 「お前のクセが何かは教えてやらない。でも、さっき「何も知らない」と言った時のお前は嘘をつく時と気まずい時のクセが出てた。本当のことを言えよ」 「え~……そんなクセあるかなぁ~?」 「5秒以内に言わなきゃ殴るぞ」 「え、ちょっ!」 「5」 「佐々木先輩!?」 「4」 「待ってってホントに」 「3」 「俺雪ちゃん先輩の」 「2」 「ことなんて」 「1……」 「タイムアーーーーップ!!!」 「ぐはっ!」  佐々木が話していると、反対側から裕也が来ているのが見えた。  山口に気付かれないように、カウントダウンをしてこちらに集中させていたのだが、ゼロを言う前に裕也の飛び蹴りが入った。  背中に思いっきり裕也の飛び蹴りを食らった山口は、見事に前方向に吹っ飛び、そのまま数メートルスライディングした。 「構内の監視カメラを確認したら、雪ちゃんを引っ張って歩いてる山口の姿があったよ!」 「やっぱり……あいつが何か知ってるのは間違いないですね」 「雪ちゃん、ここにはいないんだね」 「はい。俺が来た時には、あいつだけでした。でも……」  着く直前に車の走り去る音を聞いたと言うと、裕也がPCを取り出してさっそく付近の監視カメラを調べてくれた。 「あった!時間的にこの車かな?」 「車自体は見えなかったんでわかんないですけど……」 「とりあえず、この車を追ってみるよ」  そう言うと、裕也が携帯で誰かに指示を出した。  その頃、スライディングした山口は、雪夜の護衛係に捕まっていた。 「いててて……何なんだよおまえら……」  顔面擦り傷だらけの山口が、護衛係に連れて来られた。 「山口、雪夜を誰に渡したんだ?」 「さぁね、だから俺は何も知らないって……」 「そっか、さすがに口固いな。俺が言ってもダメなら、プロに任せるしかないよな」  佐々木はため息を吐くと、山口を一瞬(あわれ)みの顔で見た。  さっさと言えば、殴られるくらいで済んだかもしれないのに……馬鹿なやつだな…… 「え、プロって……?」 「裕也さん、お願いします」 「え、あの、あんた誰?」 「山口君、初めまして~!ここだと他の人の迷惑になっちゃうから、ちょっとお兄さんといい所行こうか!さっさと全部吐けば手足が失くなるくらいで済むけど、手元狂って首とか切れちゃったらごめんね?僕今と~~~っても……怒ってるから」  場違いなほどに明るい口調でサラッと怖いことを言った裕也がにっこり笑ったのを見て、山口の顔が一気に青ざめた。  佐々木は、兄さん連中と親しくなった時に、裕也はちょっとした揉め事のお仕置き担当だと聞いていた。  緑川をお仕置きしたのも裕也だと。  お仕置きの内容は知らないが、言葉でお説教するだけなんて生優しいものではないだろう。  なんせ、一般人とは言いつつも、ヤクザと関わりのある人達だ。  裕也についてはあまり深く追求してはいけない。  佐々木の本能がそう言っていた。 「手足が失くなるって……いや、そんな……冗談っすよね?」  山口の顔から余裕が消えて、佐々木と裕也の顔を忙しなく見比べる。 「ヤング、後はもういいよ。こっちでやっておくから。ありがとね」 「雪夜のこと……よろしくお願いします」 「もちろんだよ。また連絡するね」 「はい」 「え、ちょ、佐々木先輩!?待って、どこ行くの!?」 「じゃあな、山口」 「え……ちょ……待ってっ!!置いて行かないでえええ!?」  自分でも探しに行きたい気持ちはあるが、山口が素直に言うつもりがないなら裕也たちに任せるしかない。  裕也さんも口調はいつも通りだけど、かなり頭に来ている様子だし、恐らく夏樹さんはもっと……  佐々木は山口を一瞥すると、裕也たちに頭を下げて、クルリと背中を向けた。 ***

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