313 / 715
夜明けの星 3-27(夏樹)
大学に向かっていた夏樹は、佐々木から「後は裕也さんに任せた」と連絡を受けて、晃 のバーに行先を変更した。
裕也がお仕置きに使うのは別の場所だが、夏樹も詳しくは知らないし、その現場には行きたくもない。
晃のバーは兄さん連中の溜まり場でもあり、連絡場所にもなっているので、裕也からの連絡を待つには最適だ。
まだ昼間なので、バーには他の客はいない。
晃が連絡をしたらしく、奥の部屋には斎 と玲人 も来ていた。
***
「――お待たせ~!」
夏樹が到着してから数分後、奥の部屋にあるモニターの一つが裕也の顔を映し出した。
「え~とね、雪ちゃんを連れて行ったのは、雪ちゃんのお兄さんたちらしいよ」
佐々木がいなくなった後、山口は身の危険を感じたのかあっさりと喋ったらしい。
「お兄さんって……え、雪夜の?でも……確か二人とも海外にいるんじゃ……?」
山口の依頼主が雪夜の義父だとわかった時点で、もしかしたらこういうことがあるかもしれないとは思っていたが、兄が出てくるのは予想外だった。
雪夜から海外にいると聞いていたし、裕也の調べでもそれは間違いなかったからだ。
「それがね、二人とも用事が重なって、一時帰国してるみたい」
「兄なら、心配することはない……ですかね?」
兄二人は雪夜のことを大切にしてくれていると言っていたから、少なくとも雪夜を傷つけるようなことはしないと思うが……
「う~ん……そう思いたいけどねぇ……山口から、二人が雪ちゃんを連れて行った時の様子を聞いた感じだと、ちょっと微妙かも……」
夏樹は、長兄の言葉に雪夜が怯えていた様子だったと聞いて、少し眉をひそめた。
「……雪夜は実家に連れて帰られたんですか?」
「いや、それがね……携帯の位置情報だと、どうも実家とは別の場所っぽいんだよね」
「別の場所?」
「今出すね~」
そう言うと、別のモニターに位置情報が送られてきた。
「ここは……え、どこですか?」
モニターに送られてきた位置情報は、街中のビルの一つだった。
「ここって、確か飲食店がいっぱい入ってるビルじゃなかったか?」
晃が地図を見てすぐに答えた。
「アッキーせいかーい!このビルは、飲食関係が数店舗と後は小さい会社のオフィスがいくつか入ってるだけだから、多分、いるとしたら飲食店だよね」
「……飲食店?何か食いに行ってるのか?」
「あぁ、兄弟の再会を祝って的な?」
「まだ時間的に早くないか?昼過ぎだぞ?昼飯か?」
「いえ、雪夜は昼飯を食べて、午後の講義に向かってる時に、山口に連れて行かれたらしいので……」
みんなで顔を見合わせて、首を傾げた。
「ひとまず……少し待ってみましょうか……」
「そうだな、向こうが何がしたいのかよくわからんし……」
***
雪夜には数分置きにメールを送って様子を見ることにした。
兄たちが、久々に会う弟とただ純粋に食事をしたいだけなら、雪夜が夏樹や佐々木たちに連絡をするのは許すはずだ。
それに、裕也が、雪夜が今いるはずのビルの周囲に見張りを付けてくれたので、何か動きがあればわかるようになっている。
それにしても……雪夜が怯えてた?雪夜の話だと、兄二人に溺愛されてるような感じだったけど……
山口が言うには、長兄は「やたらと偉そうで高圧的で超ムカつく!ホント何様だよっ!って感じのイヤなやつだった」らしい。
会っていない間に性格が変わったのか……それとも、雪夜の中で兄の記憶も微妙に変わってるのか……
「ナツ、とりあえず、これからのこと打ち合わせするぞ。こっちこい!」
「え?あ、はいっ!」
携帯を握りしめて考え込んでいた夏樹は、斎の声で我に返った。
これからのこと……か……
夏樹は軽く頬を叩いて、斎たちの輪に入って行った。
***
ともだちにシェアしよう!