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夜明けの星 3-28(雪夜)
雪夜は、目の前に次々と並んでいくお皿を見ながら、頭を抱えた。
達也たちに連れて来られたのは、おしゃれなカフェだった。
雪夜はよく知らないけれど、店の入口の壁にいろんな大会で賞をとったらしい写真を飾っていたので、多分、有名なパティシエがいるのだろう。
だが、今日は定休日の札が出ており、他の客はいなかった。
もしかして、わざわざ店を開けて貰ったの!?
心配する雪夜に、達也は「なぁに、この店を開く時にだいぶ援助してやってるから、私はオーナーのようなものだ。だから気にしなくていい」と言った。
どうやら、達也の知り合いの店らしい。
いやいや……知り合いだとしても、気にするでしょ!?っていうか……
「しん兄さん!たつ兄さん!これは一体何なの!?」
「何って、ケーキだが?」
達也が相変わらず眉間に皺を寄せたまま、訝しげに雪夜を見た。
「いや、ケーキなのはわかるけど、なんでこんなにいっぱいあるの……?」
「雪くんの誕生日ケーキだよ~?」
「え?ちょ……しん兄さん、俺の誕生日ってもう過ぎてるよ……?」
兄たちが雪夜の誕生日を知らないはずはないのに……
「雪くんの誕生日が1月なのは知ってるよ。そうじゃなくてね、これは……会えなかった間の分を一気にお祝いしようと思って!」
「……へ?」
「雪くんの好きなケーキばかりでしょ?本当は大きなホールケーキでと思ったんだけど……」
「さすがに、雪夜もホールケーキを何個も一気に食べるのは無理だろうから、せめてミニケーキにするようにと言ったんだ。まったく、慎也はすることがいつも突拍子がない……」
達也がやれやれという顔で慎也を見る。
が、ミニケーキと言ってもどれも4号サイズくらいはありそうだし、全部立派なホールケーキだ。
それがテーブルの上に何個も……
「え、待って会えなかった間って……何年分!?」
「私が会ってなかったのは6年か?」
「で、僕が……4年?」
「それで、どうしてケーキが8個もあるの?」
「僕の4年分で4個と……」
「私は6年分で6個……と思ったが、さすがに10個は多いだろうから、4個にして……」
「いやいや、8個でも十分多いってばぁああ!!そこは二人ともまとめて1個にしてよぉおお!!!」
「何を言ってるんだ。こっちは私からで、そっちのケーキが慎也からだぞ?種類だって全部違うし……」
「いくらケーキが好きだって言っても、俺大食いじゃないんだし、こんなにいっぱい食べられないよ!?」
「食べきれなかったら持って帰ることもできるぞ?」
「な~んだ、それなら……って、いやいや、そういう問題じゃないいいいい!!!」
そうだった……この人たち、ちょっとズレてるんだった……っ!!
***
母の再婚相手の上代隆文 は、上代総合病院というまぁまぁ大きな病院の院長だ。
その息子である二人は、もちろん病院を継ぐために医師免許を取っている。
専門は、たしか、達也は脳神経外科、慎也は内科と小児科だ。
今は海外の最新医療を学ぶために、二人とも欧州や米国の病院を渡り歩いている。
つまり、二人ともとっても頭がいい。
でも、どこかズレているのだ。
雪夜が子どもの頃も、誕生日やクリスマスといった行事では、二人が競うように高額のプレゼントを何個も用意しようとしたので、雪夜が「プレゼントは3万円以内じゃないと受け取れません」というお達しを出したくらいだ。
雪夜にしてみれば1万円でも十分高いのだが、二人から「1万円じゃ安すぎる」と文句を言われたので3万円以内ということになった。
一応大病院の息子なので二人とも所謂 お坊ちゃんだ。金銭感覚が雪夜とは全然違う。
それに、頭の良い人というのは、凡人には及びもつかない思考を持っているのだろうから、おバカな雪夜には二人の考えなど到底理解できるわけもなく……
「ほらほら、雪くん!ぼーっとしてないで食べなよ!!」
「せめて一口ずつでも食べてみないか?」
「……わかりました。いただきます!!」
笑顔ですすめてくる慎也と、しかめっ面の達也の顔を見て、ちょっとため息を吐くと、雪夜は目の前のケーキをスプーンですくった。
「ん!?」
「どうだ?それは私が注文したケーキだ」
達也が少し心配そうな顔で雪夜を覗き込む。
「おいしいぃ~!」
「そ、そうか!そうだろう?ショコラケーキは雪夜の大好物だったからなぁ~!」
「うん、すっごくおいしい!!」
雪夜がにっこり笑うと、達也がほっとしたように今日初めて相好を崩した。
「いっぱい食べなさい。ほら、イチゴのケーキもあるぞ?これも好きだろう?」
「ちょっと、達也兄さん!次は僕の番ですよ!?」
「それは雪夜が決めることだろう?」
「そう言いながら達也兄さんは自分のケーキを勧めてたじゃないか!」
「あ~もう!二人ともケンカしないで!!俺、順番に食べるから!!」
「じゃあ、雪くん、次はこれ食べてみて!?」
「は~い――……」
達也と慎也は、決して仲が悪いというわけではないのだが、雪夜が絡むとしょっちゅう言い合いになる。
間に挟まれる雪夜は、自然と無難な答えを出すことを覚えた。
二人には聞きたいことがたくさんあったが、今はこの目の前のケーキをどうにかしなければ……
雪夜は昼飯を食べたばかりの自分の胃袋に「ケーキは別腹!」と言い聞かせて気合を入れると、スプーンを握る手に力を込めた。
***
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