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夜明けの星 3-31(雪夜)

「雪夜、そのことはまた後でちゃんと話してあげるから、ちょっと待ってね」  雪夜が困惑していることに気付いた夏樹が、優しく笑って口唇に人さし指を当てた。 「あ、はい……」  とりあえず、今は静かにしてろということか。    雪夜は自分の口を押さえると、夏樹たちに話しの続きをどうぞと手で促した。 「山口……大学ではあいつはそう名乗っていたので、山口と呼ばせて貰います。雪夜が混乱しちゃうので。その山口に今回のことを依頼したのは、上代隆文(かみしろたかふみ)。ですよね?」  夏樹が続きを話し始めた。  上代隆文って……義父さん!? 「なぜそれを!?」  父親の名前が出たことで、兄たちが驚いた顔をした。 「こちらも変な輩から雪夜を守るために、いろいろと手を尽くしているということです」 「ふぇっ!?」  俺を守る!?  思わず声を出してしまったので、急いで口を押さえる。  夏樹さんが……俺のために……?  え、何それ。嬉しいっ!  雪夜はちょっと俯くと、両手で口元を隠すフリをしてにやける顔を隠した。 「雪夜を……守る……だと?」 「恋人を守るのは当然でしょう?」 「こっ!?――」    達也と慎也が絶句したまま固まった。 「あれ?山口から聞いてませんか?俺はあいつに『雪夜とは恋人同士だ。二人で同棲してる』とハッキリ伝えましたけど?」 「……ゆゆゆ雪くん!?嘘だよね!?嘘って言って!!」 「ふぇっ!?な、何がっ!?」 「こ、この男と、こ、こ、恋人って!!」  慎也が夏樹を指差しながら、半泣きの顔で雪夜を見た。  ん?さっきそう言わなかったっけ……?    どうやら先ほどは同棲という言葉に反応しただけで、二人とも『同棲=恋人同士』というところが抜けていたらしい。  それだけ二人とも動揺しているということなのだろうか? 「あの、そ、そうです。夏樹さんと……つ、付き合ってる……ます!」  焦って日本語がおかしくなったが、誰も気にする様子はなかった。 「雪くん!?恋人って、でもこいつ男だよっ!?ねぇ、よく見て!?どう見ても男だよっ!?雪くんだっていくら可愛くても男なんだよっ!?あれ?女だったっけ……」 「しん兄さん、落ち着いて!どう見ても夏樹さんは男だし、俺も男です!」 「そそそうだよね!?良かった~……って、いや、良くないよ!全然良くないっ!!雪くん、騙されてるよ!?」 「そうだぞ雪夜、恋人っていうのは、その……友達とは違うんだぞ?わかるか?」 「え?え、はい、あの……わ、わかってるよ!?」 「いいや、わかってない!!慎也の言う通り、お前は騙されてるんだ。あんな奴と一緒に住んでるなんておかしい!何か弱味でも握られて脅されてるんだろう?」 「はへ!?」  どうしてそんなことになるの?同棲してるって言ってるだけなのに、騙されてるとか脅されてるとか…… 「ち、違うよ!?ホントにあの、夏樹さんとは、恋人同士で……」 「だから、お前は男なんだ!こいつと恋人同士というのはおかしいだろう?」 「……っ!」  あ……そうか……俺大事なこと言ってなかった……  雪夜は隣に立つ夏樹の服をキュッと握った。  そんな雪夜を励ますように、夏樹は肩を抱く手に力を込めて、雪夜を軽く抱き寄せてくれた。 「あの……ね、兄さん……俺、その……実はゲ、ゲイなの……っ!」 「……なに?」 「ちょ……雪くん、何言ってるの?」 「だからっ!俺は、女の人よりも男の人が好き……っていうか、あの、でも男なら誰でもいいわけじゃなくて……俺は夏樹さんが好きなの!だから恋人っていうのも本当だし、同棲してるのも……本当です」 「ゲイ……?」  達也が眉間を寄せて視線を泳がせると、一瞬ハッとした顔をした。 「なんてことだっ……!!まさか……こんなことになるとは……っ!!」    頭を抱えて唸ると、パッと顔をあげて、必死の形相で雪夜の手を掴んだ。 「雪夜、それは違う、違うぞ!お前はゲイなんかじゃない!!」 「そうだよ、雪くんは普通の男の子だよ!?」  ゲイ……?  そうだ、忘れていた……  同性愛に偏見を持っている人は少なからずいる。  だから、雪夜もずっと隠して……夏樹と恋人になってからも外ではそう見えないように気を付けて……  だけど、斎さんたちや、愛ちゃんママたちが、あまりにも当たり前に、ありのままの雪夜を受け入れてくれたから……家族なら、受け入れてくれるものだと、勘違いしていた。  兄さんたちも……話せば受け入れてくれるものだと……  雪夜は兄たちにこんなに全力で否定されると思っていなかったので、ショックのあまり次の言葉が出てこなかった――…… ***

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