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夜明けの星 3-35(夏樹)

「斎さん、助けて!雪夜が落ちる!!」 「お?はいよ!……なんだこれ?ケーキ?」 「ケーキです。……っと」  ビルの外で待っていた斎にケーキの箱を渡すと、ずり落ちかけていた雪夜をしっかりと抱き直した。  起きている時ならまだしも、完全に眠っている状態の雪夜を片手でずっと支えるのは、さすがにキツイ。 「んむぅ~……」 「はいはい、ごめんね。まだ寝てていいよ」  寝惚けて文句を言ってきた雪夜の背中をトントンと撫でる。 「雪ちゃん大丈夫だったか?」 「はい、ぐっすり寝てます。……聞こえてましたか?」 「あぁ、よ。まぁ、おまえにしては頑張って抑えてたな」  斎が、雪夜の頭を撫でながら笑った。  実は、店に入って雪夜の体調を見ている時に、テーブルの下に盗聴器を貼り付けておいたのだ。  だから、夏樹が聞いていない、発作が起きる前の雪夜と慎也のやり取りも、裕也たちには聞こえていたはずだ。  だいたいのことは本人たちから聞き出したが……後で裕也さんに詳しく聞いてみよう。 「(盗聴器は)回収したか?」 「それはもちろん。あぁ、達也のスーツの襟に小型のを貼り付けてあるので、後はそっちから聞けるはずです」 「そうか、そっちはユウが聞いてるだろ。よし、それじゃとりあえず帰るか」  ケーキの箱を2個重ねて、器用に片手で持つと、映画のワンシーンのように颯爽と斎が歩き出した。    ケーキの箱を抱えるだけで絵になるってどういうことだよ?  その後ろを雪夜を抱っこした夏樹が歩く。いろんな意味で注目を集めていた…… ***  ――兄たちとの再会後、雪夜は少し不安定になり、翌日は夏樹にべったりくっついていたが、2日後にはまた大学に行くと言い出した。  なるべく講義に出席したい、という雪夜の気持ちは尊重したいし、大学に行きたいと思えるほど気力が回復したことは喜ばしいことだ。  とはいえ、いろいろと不安要素があるので、夏樹は、護衛係が常に付き添うのを条件にOKを出した。  雪夜は、発作を起こしていた間のことは、ほとんど覚えていないらしい。  ただ、兄に「夏樹の家には帰らなくていい」と言われたことだけは覚えていたらしく、朝、家を出る時に「今日もここに帰ってきてもいいですか?」と何度も確認してきた。  いいですかも何も、俺が手放すわけないだろ?  ちなみに、佐々木たちはというと……  あの後、雪夜を心配してお見舞いに来てくれたのだが、二人とも今回雪夜が連れて行かれたのは自分たちのせいだとかなり落ち込んでいた。  特に、責任感の強い佐々木にしてみれば、今回のことはショックだっただろうと思う。  だが、その時まだ若干不安定だった雪夜は、佐々木たち以上に、またみんなに心配と迷惑をかけてしまったと落ち込んでいた。  普段うるさいくらいに賑やかな3人が、一斉にしょげ返っている光景に、さすがの夏樹もどうしたものかと頬を掻いた。  夏樹は、別にケンカをしているわけじゃないんだから、すぐにいつも通りになるだろうと思いしばらく見守っていたのだが、3人が正座をして向かい合い、項垂(うなだ)れている状態で15分ほど経過したところで、いい加減痺れが切れて、佐々木と相川を台所に呼び出した。 「あ~もう!佐々木も相川もうぜぇよ!今回のことは、おまえらのせいじゃない。山口のことや兄たちが帰国してることを掴めてなかったこっちが悪いんだよ。むしろ、おまえらがすぐに裕也さんに連絡してくれたから、対処できたんだ。そもそも雪夜だって、おまえらのせいだなんて思ってないよ」 「それはそうだけど……」 「だいたい、おまえらのせいだと思ってたら、俺が家にあげるわけねぇだろ」 「たしかに、夏樹さんたちの落ち度なんだけどさぁ……」  相川がしょんぼりしながら呟く。 「うん、そうだな。こっちの落ち度で……っておまえに言われるとなんかムカつくな……」 「でも、俺たちといる時は護衛係を遠ざけろ。なんて偉そうに言ったくせに、雪夜から目を離しちゃったし……何よりも……あの山口に出し抜かれたのが……悔しいっっ!!」  よほど悔しかったのか、佐々木が珍しく感情的になっていた。 「まぁ、山口に関してはこっちで捕まえてあるから、もう大丈夫だよ。それよりも、雪夜を元気にできるのは、のお前らしかいないだろ?ほら、いつまでもしけた面してねぇで、雪夜を笑わせてこい」  夏樹が二人の頭をわしゃわしゃして台所から追い出すと、相川が「あんたってホント、清々しいほどに『雪ちゃん命』だな」と苦笑いをした。  なに当たり前のこと言ってんだか…… 「でも、俺らに取っても雪夜は大事なんだ。だから……もう二度とこんなヘマしないっ!」 「そうだな、おまえらのことは頼りにしてるよ。よろしく頼むわ」    スッキリした顔になった佐々木たちは、夏樹に二ッと笑いかけると、「ごめんな、雪夜~~!」と言いながら雪夜を両側から抱きしめた。  おい、俺は抱きつけとは言ってねぇぞっ!?  ……まぁいいか。仲が良いのは良いことだ。  青い春だねぇ~……  俺も昔、吉田とケンカした時には……あ、うん。俺らの場合はこんな爽やかじゃなかったな。    泣き笑いをしている雪夜たちを見ながら、夏樹も自分の青春時代に思いを馳せた……が、あまりに殺伐とした思い出だったので、すぐに現実に戻って、4人分の晩飯の支度に取りかかった――…… ***

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