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夜明けの星 3.5-1(夏樹)

《夜明けの星……おまけ ~夏樹の覚悟~》  雪夜が大学に行っている間に、夏樹は晃のバーで裕也たちと会っていた。  あの時の詳しい話を聞くためだ。 「――……まぁ、慎也から聞いたのとほぼ変わりませんね。やっぱり、慎也たちが、俺が雪夜を脅して家に連れ込んでいると勘違いして、俺のところに帰らなくていいと言ったのが、発作の原因ですね」  雪夜にとって、『騙した』『脅した』『嘘をついた』はある意味地雷だ。  何と言っても、雪夜が俺にしたことだからだ。  まぁ、嘘をつかれていたことは少しショックだったが、脅されたと言ってもあんなの脅しに入らないし、騙されたという程のものでもない……それでも、雪夜はいまだにそのことを気にして、俺に対して()い目に感じているところがある。 「それで、いくつか雪夜の兄たちが気にかかることを言ってましたが、俺たちが店を出た後は……?」 「……あ~、うん、その前に……なっちゃん、あのね~……怒らないで聞いてくれる?」  裕也にしては珍しく、夏樹の顔色を窺うように話しかけてきた。 「なんですか?」 「別荘にいる時に、雪ちゃんの家族のこととか、過去のこととかいろいろ調べて報告したでしょ?」 「はい」 「実はね、あれ、まだ一部なんだよね――」 「まだ調べが済んでないとは言ってましたね」  裕也は情報収集に長けているが、それはサイバースペース内の情報であって、それ以外のアナログ情報に関しては、それなりに収集に時間がかかる。  それは夏樹もわかっているので、催促することはなく、裕也のペースに任せていた。 「うん、そうなんだけどね、実はもうほとんどわかってるんだ」 「……ん?」 「ただね、内容がね……僕でもちょっと引いちゃうレベルの内容だったからさ……なっちゃんに知らせるかどうか迷ってて……」  裕也が引くレベルってどういうことだ!?いや、っていうか、わかってるのに俺には黙ってたってこと? 「俺には知る権利があると思いますが……?」 「うん、それはそうなんだけど……あ~ほらぁ~怒らないでねって言ったのに~!」 「怒ってませんよ……」 「なっちゃん、声と顔が怖いよ~!」 「怒ってませんっ!!それよりっ……」 「ナ~ツ、落ち着け。ユウを責めるな。俺が知らせるなって言ったんだよ」 「斎さん!」  声のする方を見ると、斎が部屋に入って来たところだった。 「ちょうど聞こえた」 「知らせるなって、何でっ……!?」 「正確には、、だ。ユウの調べがついた時には、まだ雪ちゃんも別荘に慣れてなかったし、お前も精神的に(まい)ってたからな」 「でもっ……」 「それにな……全部知る必要があるか?お前は雪ちゃんの過去を全て知って、どうしたいんだ?」 「……え?」  全部知る必要……?俺は、どうしたい…… 「俺は……ぶっちゃけ雪夜の過去に興味はないです。過去がどうであろうと、雪夜は雪夜だ。今の雪夜を愛する気持ちは変わりません。俺は雪夜が笑顔で過ごせるなら、それでいい……ただ、雪夜のトラウマが過去の記憶に関係があるのは確かで、雪夜にとって、良い記憶ではないことも確かです」 「あぁ、そうだな」 「雪夜がそれをずっと忘れていられるなら、俺も無理に過去を知る必要はない。でも、この数か月、いろいろと事件に巻き込まれたせいで、夢の中や発作時に過去の記憶が少しずつ出て来てる……」 「今のところは、覚醒すれば忘れてるんだよな?」 「はい、目を覚ました後は、ほとんど夢の内容は覚えてないです」  雪夜は、何か怖い夢を見た程度にしか覚えていない。  だが、それもどこまで本当かわからない。  夏樹にどう説明すればいいのかわからないから、覚えていないと言っているのかもしれないのだ…… 「そうか……」 「今のままだといつ思い出してもおかしくない……でも、今雪夜が過去の記憶を思い出したら、きっと混乱すると思うんです。自分が知っている記憶とは違うわけですし……」 「それは間違いないと思う。よく頭を打ったりして一時的に記憶喪失になった場合、記憶を取り戻した時には、記憶喪失になっていた間のことを覚えていない、ということがあるが……まぁ俺もそうだったんだけど……でも、雪ちゃんの場合は本来の記憶は奥の方に押し込んで、別の記憶に上書きっつーか、すり替えられているわけだから、過去を思い出した時には、すり替えられた記憶と、真実の記憶が混濁している状態になると思うんだよな~……」  そういえば斎さんは、なお姉と結婚する前に、ちょっとした事故で記憶喪失になったんだっけ?  その頃のことは夏樹はよく知らないが、かなり大変だったとか……まぁいいや。 「はい……だから、俺は先に知っておきたいんです。だって、雪夜が過去の記憶を思い出した時に、俺まで一緒に動揺するわけにはいかないでしょ?そんなんじゃ支えてやれない」 「そうだな……うん、わかった。この情報は、ユウと俺と、あとは、情報収集を手伝ってくれた愛ちゃんの3人だけが知ってる。他のやつらには、知らせる必要はないと判断した」 「愛ちゃんも……」  情報収集を手伝ってくれとお願いしたのは、夏樹だ。  だから、愛華が知っていてもおかしくはない。 「それじゃ、まぁ、ゆっくり読め」 「僕たちは店の方にいるからね~」  裕也と斎はそう言うと、資料とデータを残したまま部屋から出て行った――……   ***

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