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夜明けの星 3.5-3(夏樹)
「はい!ってなわけでね?そういうことなんだよ!!」
重苦しい空気をぶち破って、裕也が入って来た。
裕也のこの空気を読まないスキルもある意味スゴイと思う。
読めないわけではなく、敢えて読まない。浩二と裕也は、そういうところがあるのだ。
だから、何も考えていないようで、やけにタイミングは良い。空気は読まないが、その代わりにタイミングを読んでいるのだ。
今も、先に斎だけに様子を見に来させて、夏樹が落ち着くのを待っていたのだろうと思う……たぶん。
「……何がですか?」
黙っていても仕方ないので、夏樹は若干鼻声で裕也に問いかけた。
普段なら、軽くツッコむところだが、今はそんな余裕はない。
「え?だから、雪ちゃんのお兄ちゃんたちが口走ってたこと!」
「あ~……」
雪夜の兄たちが会話の端々に気になることを言っていた。
それらの答えが、この資料に書いてあるということだった。
「あぁ、ここらの話ですね……」
夏樹は思い当る資料を漁って、もう一度読み返した。
「そうそう。つまり、なっちゃんは、詳しいことを知らないのに結構核心をついたことを言ってたわけだ。たぶん、お兄ちゃんたちは焦ったと思うよ~?」
あんなの……あまりにムカついたから思わず口をついて出ただけで、まさか核心をついていただなんて……
***
「でね、なっちゃんたちがいなくなった後に話してたのは~――……」
夏樹に核心をつかれたことで、雪夜の兄たちは夏樹が一体何をどこまで知っているのか……それを随分と気にしていたらしい。
そして、また山口に連絡を取ろうとしていたとか。
もっとも、山口はこっちが捕まえているし、ポンコツ探偵についても、すでにこちらから手を回している。
ポンコツ探偵に向こうから連絡がくれば、すべてこちらに筒抜けだ。
だから、雪夜の兄たちが夏樹について、何を心配しているのか、何を調べさせようとしているのか、それらはすぐにわかる。とのことだった。
「雪夜の兄たちは、山口を使って雪夜を呼びだしたわりに、あまり俺のことは知らない様子でしたね」
「あぁ、それなんだけどね、やっぱりポンコツ探偵を使って調べさせた張本人は、父親の方だったんだよ。で、お兄ちゃんたちは……」
雪夜の兄たちが帰国したのは、数日前。
帰国してすぐに、雪夜が以前一人暮らしをしていたマンションにサプライズで訪れた。
だが、もちろん、そこに雪夜はいない。
管理人からは、ちょっとした手違いで部屋が使えなくなったので、引っ越したとだけ言われたらしい。
雪夜の引っ越し先を聞くために父親の病院に行った兄たちは、院長室で、たまたまポンコツ探偵の調査報告資料を見つけたので、ざっと目を通して山口に連絡を取ったのだとか。
ざっとでも目を通したのなら、なぜ夏樹と付き合っていることを知らなかったんだ?
ポンコツ探偵がその部分をちゃんと書いてなかったのか……それとも……
「あ、どうやらね、山口はポンコツ探偵に、同棲じゃなくて、同居っていうか、なっちゃんの部屋に雪ちゃんが居候してるって説明したみたいで、なっちゃんと恋人同士だとは報告してなかったみたい」
「どうしてですか?」
「う~ん……本人もよくわかってないみたいだったけど……とりあえず、山口なりに雪ちゃんのことは気に入ってたみたいだからねぇ~。まぁ、恋人については雪ちゃんが自分から家族に伝えるべきだと考えたのかもね」
気に入ってた……へぇ~……?
なんだ、あいつ自分が雪夜に惚れてるって自覚してなかったのか。
まぁ、山口にしてはいい判断だな。
雪夜が自分から家族に伝える。俺もその方がいいと思う。
でも……
「雪夜の兄たちがあんなにゲイを否定していた理由は?」
「それはまだはっきりとは……でも多分、記憶を弄ったことと関係があるとは思うよ~」
「そうですね……――」
記憶に関係しているなら、義父も否定してくる可能性が高い。
そもそも、あの兄たちの実父になるのだから、性格もどちらかに似ているはずだし……
雪夜は、威圧的な態度を取る相手は苦手だ。
だから、長兄のことも、兄として慕ってはいるものの、口調や態度が威圧的になると怯えて委縮していたのだ。
雪夜の両親には一度挨拶に行くつもりだったけれど、雪夜と二人で行って、もし、義父も同じように威圧的に否定してこられれば、また発作を起こすかもしれない……
事前に俺だけで両親に会いに行って、いろいろと話をしておいた方が良さそうだな……
***
「あ~、えっとね……雪ちゃんの実家なんだけど……」
「実家がどうかしましたか?」
先に夏樹だけで両親に話をしに行ってみようと思う。と裕也に話すと、裕也がちょっと難しい顔をした。
「雪ちゃんの話だと、実家には今お母さんとお義父さんがいるはずだよね?」
「そうですね。まぁ兄たちも帰国してるから、今は兄たちも……」
「いないよ」
「え?」
「誰もいない」
「誰も……いない?――」
雪夜の過去を知ったばかりで、精神的にいっぱいいっぱいになっていた夏樹は、ここにきての新たな展開にもう頭がついていかず、思わず口を開けたマヌケな顔で裕也を見た。
***
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