330 / 715
夜明けの星 4-1(雪夜)
――陽の光、水の流れる音、木々のざわめく音、鳥の囀 り……
そして、楽しそうな笑い声……
ここは……どこ?
雪夜は、光溢れる山の中の川辺に立っていた。
あぁ、これは昔迷子になった時の……
みんなでキャンプに行ったんだ。
ママとパパと……それから……
それから……だれ?
三人目の人影に目を凝らそうとした途端、ぐにゃりと景色が歪んだ。
さっきまで温かい光に包まれていたはずなのに……
急に周りの風景が暗闇に飲み込まれていった。
――い……
――だいっきらいっ……
――あんたなんか……●●●ヨカッタノニ……
甲高い叫び声がキンキンと頭に響く。
雪夜を見下ろして罵倒しているその人物の顔は、ペンで塗りつぶしたように黒く潰れていて、誰かわからない。
わからないけど……知っている……人?
雪夜はどうしてそんなに怒られているのかわからずに、ただただ困惑していた。
そして、その人の顔が遠ざかっていくのを……スローモーションで瞳に映しながら……
謝り続けた。
やめて!
なんで……っ……
ごめんなさい……ごめんなさい……お――……
***
「――……やっ、雪夜っ!!」
「ひっ!?」
突然強く揺さぶられて、パチッと目を開いた。
「雪夜!?大丈夫?」
「……あ……え?」
全力疾走した後みたいに心臓がバクバクして息切れがする。
喉が渇いて乾いた咳が出た。
さっきのは一体なんだったんだろう……
頬を撫でられている感触にハッとして我に返ると、目の前に、心配そうな夏樹の顔があった。
「俺のことわかる?」
「なつ……きさん……」
夏樹は、雪夜が名前を呼ぶと、少しほっとした顔で微笑んだ。
「うん、どうした?怖い夢見た?うなされてたけど……」
うなされてた?
「怖い……夢?……わかんない……なんだろ……」
夢の内容は覚えていない。
でも、ぼんやりと頭の中に残る光景や感情は怖いというか、悲しいというか……困惑……?
よくわからないが、嫌な空気が身体中に纏わりついてきたような息苦しさを感じ、泣きたくなるくらい胸が締め付けられた。
「……痛っ!?」
思い出そうとすると、ひどく頭が痛む。
わけもわからず動悸が激しくなり、嫌な汗が流れた。
思い出せない……
思い出したいのに、思い出しちゃいけない気がする……
「おいで、覚えてないならいいんだ。無理に思い出さなくていいから……まだ早いからもう一回寝よう」
「ん……」
夏樹は困惑してポロポロと涙を零す雪夜を抱きしめ、落ち着いてまた眠りにつくまで「大丈夫だよ」とあやしてくれた。
***
ともだちにシェアしよう!