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夜明けの星 4-11(夏樹)

――おい、大丈夫なのか? ――はい、ギリギリ大丈夫な量にしてあります。持病があれば危ないかもしれませんが……見た所健康そうですし……でも、雪くんはコーヒーに溶かした分だけなので、あまり長時間は…… ――そうか。よし、それじゃあ、お前は先に雪夜を車に乗せて来い。私はこの男を縛ってから…… 「おっじゃましまーっす!!」  バンっとリビングの扉が開いて、裕也と斎が入って来た。 「えっ!?だ、誰っ!?」 「何だお前たち!?一体どこから……」  ひそひそ声で話していた慎也と達也が手を止めて、予想外の侵入者の登場に困惑顔を向けた。 「どこから?玄関からに決まってるだろ?」 「ちゃんと靴も揃えて入って来たよ~!」  斎と裕也が、当たり前のことを聞くなという顔で二人を見た。 「げ……玄関って……おい、慎也!お前ちゃんと鍵閉めて来なかったのか!?」 「えええ!?いやいや、僕はちゃんと閉めましたよ!?雪くんたちが入ってから……」 「あぁ、鍵なら開いてたぞ?ナツが入る時にちょっと細工しておいてくれたからな」 「細工……?」 「もっとも、閉まってても僕にかかればあっという間に開けちゃうけどね~!」 「それはそうと……ナ~ツ、そろそろ起きろ~」  斎が雪夜の隣に倒れ込んでいた夏樹の頭をペシッと叩いた。 「ん‟~~……まだ眠い……」 「ぁん?縛ってもらいたかったって?すまん、ちょっと助けに来るのが早すぎたみたいだな。出直してこようか?」 「嘘です、ごめんなさい!助けに来てくれてありがとうございます!!」  もう少し横になっていたかったが、仕方なく起き上がる。  別に素人の縛り方なら抜けることは簡単なのだが、縛られる(そういう)趣味はないので、もし斎たちが来るのが遅れるようなら縛られる前に起きるつもりではあった。 「ええっ!?うそ……そんな……起き上がれるわけ……!!」 「お、おい、慎也!?お前何を打ったんだ!?」 「僕はちゃんと……」 「うんうん、用意してたよね~!でも、ごめんね~!注射の中身はすり替えさせて貰いました~♪」  裕也が何やら小さな小瓶を取り出した。 「まぁね、別にこれくらいなら打たれても大丈夫だと思ったんだけど、一応、ビタミン剤と交換させてもらったよ」 「いつの間に……」  慎也が茫然と裕也の手元を見て呟いた。  裕也がいつ慎也の薬をすり替えたのか……夏樹にもわからない。  が、どうせなら、コーヒーに混ぜられていた薬もビタミン剤にすり替えておいて欲しかった…… 「いいじゃんか。どうせなっちゃんはそれくらいじゃ効かないんだし」 「それはそうですけど……」  夏樹は基本的に薬が効きにくい体質をしている。  子どものころは病気になってもなかなか薬が効かなくて困ったが、今はこの体質で良かったと思う。  その上、愛華たちに引き取られてからは、組長の息子という立場上、狙われることもあるだろうからと、愛華のスパルタで毒耐性も付けられたので、多少の毒は効かない。  とは言え、全然効かないわけではないし、今回みたいに経口と注射の両方で来られるとさすがにキツイので、裕也がすり替えてくれたのはありがたい。 ***  夏樹はひとまず、雪夜を3階の雪夜の部屋……の隣の慎也の部屋に寝かせてきた。  雪夜の部屋は掃除されていなかったので、なんとなく埃っぽい布団に寝かせるのは嫌だったからだ。  リビングに戻ると、達也たちが斎たちに見張られながらソファーに座っていた。  逃げたり暴れたりする様子はなさそうだし、もし暴れたとしても斎と裕也がいればすぐに取り押さえられるので、縛る必要はないと判断したようだ。 「――で、雪夜をどうするつもりだったんですか?」  夏樹は、斎が入れてくれたコーヒーを飲みながら、努めて冷静に達也たちへ問いかけた――…… ***

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