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夜明けの星 4-13(夏樹)
「私たち兄弟が雪夜と初めて会ったのは、雪夜が二歳の頃だった――」
達也が遠い記憶を思い起こすように、視線を遠くに向けて淡々と話し始めた。
「両親が離婚して、経済的な理由から二人とも父親に引き取られたものの、病院を継いだばかりだった父は仕事が忙しくあまり家に帰ってこなかったため、ほとんど話すことはなかった。私たちは家政婦に育てられたようなものだ……」
その父から、ある日突然「うちの病院に入院している子のお見舞いに行ってやってくれないか」と言われた。
その子は、母親と二人暮らしなのだが、その母親が過労で倒れたのだとか。
毎日仕事帰りにお見舞いに来ていた母親が来ないと、その子が心配するだろうし淋しがる。
だから、母親が倒れたことは言わずに、母親が元気になるまで少しの間、その子の話し相手をしてやってくれと言う事だった。
「最初は、何をバカなことを言ってるんだろう、と思ったよ。自分の息子には見向きもしないくせに、他人の子どものお見舞いをしろだなんて……」
だが、あまりにも熱心に頼まれるので、仕方なく学校帰りに慎也と二人で病院に寄った。
ちょっと顔を出したらすぐに帰るつもりだった。
当時は達也もまだ十二歳だ。二歳の子と何を話せばいいのかもわからないし、父親の勝手さに嫌気がさしていた。
その子には悪いが、愛想笑いをする義理もないので仏頂面で病室の扉を開けた。
そこには……
「天使がいた」
達也は、説明口調そのままに、重々しく呟いた。
「天使みたいな、なんてものじゃなくて、本当に天使がいたんだ。白いシーツの上で、クリクリの目を大きく見開いて私たちを見つめる雪夜は、紛れもなく天使だった!」
「うんうん、ぷくぷくで薄ピンクのほっぺ、ぷるぷるの口唇、長い睫毛……ホントにあの時は作り物かと思ったくらい……雪くんが天使に見えたんだよ!」
達也と慎也が真面目な顔で興奮気味に“天使”を強調する。
その様子を、斎と裕也が何とも言えない表情で見ていた。
やはり、達也たちは両親の再婚前にすでに雪夜と会っていたのか。
まさかそんな幼い時に会っていたとは思わなかったけど……というか……
やっぱりそうだよな~……!俺が見た時も天使みたいに可愛かったんだから、小さい頃はもっと……って、
「お義兄さん!その頃の写真とかないんですか!?天使の雪夜見てみたい!!」
「おい、ナツ!食い付き過ぎだろっ!」
「だって、天使の雪夜ですよ!?絶対可愛いに決まってるじゃないですかっ!」
「わかったから落ち着け!」
前のめりになっていた夏樹は、斎にソファーに押し戻された。
「俺たちだって雪ちゃんは可愛いと思ってる。そりゃ子どもの頃の雪ちゃんは今よりもっと可愛かっただろうとは思うよ。写真も見たい。でも今は、そこじゃねぇだろ!?」
「「雪夜は今も可愛い!」」
達也と夏樹の声が被った。
「わかってるっつーの!何だよ仲良しだなお前ら!ウザさ倍増だわ!」
斎が顔をしかめながら、夏樹の額をぺチリと叩いた。
「で、とりあえず、雪ちゃんが天使なのはわかったから、続き!!」
***
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