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夜明けの星 4-14(夏樹)

 斎に促されて、達也が渋々続きを話し始めた。 「雪夜はしょっちゅう入院をしていたせいもあって、言葉が少し遅れていたんだ。だが、とても聡い子だった。母親が来れないのは何か理由があるのだろうと、たった二歳の子が泣き言も言わずにじっと耐えていた」 「雪くんはね、僕たちの名前を聞いて「みんな『や』がつくからおそろいだね」って笑ってくれたんだ。その笑顔がまた最高に可愛くて……っ!!兄弟揃って『也』がつくとか、ネーミングセンスなさすぎって思ってたけど、その時初めて父に感謝したよ……」 ――くんはだよ。みんながちゅくね~!うれちぃね~!」 「舌ったらずな雪夜が可愛くて、ずっとこのままでもいいんじゃないかと一瞬思ったくらいだ。まぁ、私たちがお見舞いに行くようになっていっぱい話すようになったし、慎也がムキになって教えたからすぐに言葉も覚えたがな」    達也が少し残念そうな顔をする。 「そりゃ僕だって、舌ったらずな雪くんは可愛いと思ったよ?でも……雪くん「さしすせそ」が言えなかったから、僕の名前を呼ぶ時も「し」を「ち」って言っちゃって……」 「――……ぶはっ!」  一瞬の静寂の後、その場にいた全員が一斉に吹き出した。 「ほらぁ!みんな笑うでしょ!?だからせめて僕の名前だけでもちゃんと呼べるようにって必死になって「し」の発音を教えてたら、いつのまにか他の言葉もちゃんと発音出来るようになっちゃったんだよね……」  慎也が、必死に笑いを堪える斎たちに顔をしかめた。    「し」の発音がね……そりゃまぁ、傍から聞いている分には面白いが、本人にしてみれば複雑だったのだろう。  それより、雪夜が自分のこと『ゆちくん』って……なにそれ可愛っ!  くそっ!俺もその頃の雪夜に会いたかったっ!! 「あれ?考えてみると……僕も『ゆうや』で『や』がつくから、お揃いだね!!『達也』『慎也』『裕也』って漢字も同じだし!僕も雪ちゃんのお兄ちゃんでいいんじゃない!?」 「いや、裕也さんは兄っていうより親……ぅぐっ……」  夏樹がボソッと呟いたのが聞こえたらしく、裕也の肘鉄を食らった。  いや、だって裕也さんの年齢だと兄弟はキツイっすよ……!? 「あ~もう!ユウ、ちょっと黙れ。おまえまで入ってきたら話が進まねぇだろ」  斎がこめかみを押さえつつ裕也に注意をした。 「は~い!え~と、とりあえず雪ちゃんとお兄ちゃんたちの出会いはわかったから、どんどん話進めちゃおう。雪ちゃんが山で遭難したのは三歳頃だよね?」  山で遭難という言葉を聞いて、それまで緩み切っていた達也たちの表情が一気に険しくなった。 「そうだ。雪夜が三歳の頃だ……」 *** 「もう調べはついているのだろうが、雪夜には姉が一人いたんだ――」  雪夜の実父の松本清(まつもとせい)は、雪夜が生まれてすぐに職場での事故で亡くなった。  残されたのは、生まれたばかりの雪夜と、五歳になる姉と、身体の弱い母親の涼子(りょうこ)。  身寄りのなかった涼子は、他に頼れる人がいない。  清の葬式で途方に暮れていた涼子に追い打ちをかけるように、義両親(清の親)がやってきて、「出産したばかりでろくに働くこともできないおまえには、子どもを二人も育てるのは無理だろう」と、もっともらしいことを言って無理やり娘を連れて行かれてしまった。  義両親は清が自分たちの決めた婚約者を蹴って、駆け落ち同然で涼子と結婚したことを、ずっと根に持っていて、孫が生まれても涼子のことは嫌っていた。  そんな人たちに可愛い我が子を奪われたことは悔しかったが、義両親の言うことももっともで……  雪夜は身体が弱く入退院を繰り返す日々だ。  雪夜の看病をしながらでは、正規として働けない。  涼子は、短時間の仕事を掛け持ちして必死に働いたが、雪夜を育てるだけで精一杯だった。  それでも、いつかは娘を迎えに行って、親子三人で暮らしたいという夢をずっと持っていたのだとか。 「雪夜が入院していたのはうちの病院だったから、毎日看病にくる涼子さんを見かけてうちの父が一目惚れでもしたのだろう。そこら辺の子細は知らないが父が、涼子さんと再婚しようと思う、と言ってきたときには、やはりな。という感じだった」  何か下心がなければ、雪夜のお見舞いに行ってやってくれだなんて、あんなに熱心に言うはずがない。  先に子ども同士仲良くさせようとでも思ったのだろう。  父の思惑通りになるのは癪だったが、実際、達也たちは、涼子が元気になってからも雪夜のお見舞いに行っていた。  涼子と再婚したいと聞いた時も、達也と慎也の頭に浮かんだのは、これからはずっと雪夜と一緒にいられるということだ。反対する理由などない。むしろ大歓迎だった。 「父は再婚するにあたって、雪夜の姉も引き取ることを承諾していた。あのキャンプは、両親の再婚が決まって、雪夜の姉を引き取って、改めて家族全員の顔合わせと親睦を深めるためのものだった……」 ***

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