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夜明けの星 4-22(夏樹)
達也に連れて来られたのは、同じく最上階の反対側にある、院長室だった。
夏樹たちが入ると、達也と慎也の実父であり、雪夜の義父の隆文 が白衣を脱いでいるところだった。
簡単に挨拶を済ませて応接ソファーに座る。
裕也の資料で、写真は見ていたが、目の前にいる隆文は写真よりもぐっと老けて見えた。
いや、夏樹の周辺の人間が年齢不詳すぎるだけかもしれないが……
「きみとは、一度会って話をしなければと思っていたんだ」
隆文は、夏樹を品定めするように上から下までじっくりと見た。
「奇遇ですね、俺もそう思っていましたよ」
もっと早くに会って、話しておけば……
「達也と慎也から、大方 のことは聞きました。今回は私の息子たちが少々先走ってしまったようで……巻き込んでしまって申し訳ない」
「いえ……」
達也と慎也は学会のために一時帰国しているだけなので、後数日でまた日本を発たなければいけない。
そのため、自分たちが日本にいるうちにどうにかしなければと焦ったのだろう。
「雪夜の過去については、達也さんと慎也さんから、聞きました」
「そうらしいな。だが、きみはもう知っていたんじゃないのか?」
「さすがに、全ての情報を手にしていたわけではないので……。ところで、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「雪夜を眠らせて、一体どこに連れて行こうとしていたんです?」
「達也、どこに連れて行こうとしていたんだ?」
急に父親から話を振られて、達也が少し慌てる。
「それは……あの……涼子さんのところへ……」
「なんだと!?」
隆文が達也の言葉に眉をひそめた。
「お前たち、涼子と雪夜を会わせるつもりだったのか!?それはまだ……」
「いえいえ、それはさすがにしませんよ!そうじゃなくて、涼子さんがいる、あの場所へ連れて行くつもりだったんです」
「まだその時期じゃないぞ?」
「だけど、雪夜は度々不安定になっているようですし、このままでは、いつ思い出してもおかしくない。雪夜はもう大学4年生です。予定を少し早めるだけですよ――……」
達也と隆文の会話を聞きながら、夏樹は裕也と顔を見合わせた。
こいつら……今なんて言った?
「予定……とは一体なんのことですか?」
夏樹が割り込んで尋ねると、上代親子が一瞬ギクリとした。
「それは…………」
隆文が少し言い淀む。
「雪夜は、大学卒業後は、達也か慎也がこちらに戻って来るまで、母親が入院している精神病院に入院させる予定だった」
「……はあ!?なんでそんなことを……!?」
夏樹は、隆文の言葉に唖然とした。
***
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