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夜明けの星 4-29(夏樹)
「でも、工藤先生?雪夜はまだ意識が戻ってないから勝手に動かせないし、何より、先生一人の考えでどうにかなるもんなんですか?雪夜の義父は、そのこと知ってるんですか?」
もちろん、そんな研究所なんかに渡す気はないので、雪夜は俺が連れて行くつもりだが、今の状態で動かすのは危険すぎる……
夏樹の問いかけに、裕也と何やらアドレスを交換していた工藤が顔を上げた。
こんな時に何やってんだ……と思ったが、裕也のすることには口出ししない!と自分に言い聞かせてスルーした。
「そこなんですよね~……私が虚偽の報告をしていたせいで、上代さんは私のことを何だか敵視しちゃってるし……でもまぁ、その点は大丈夫です。どうしても上代さんと和解出来なければ、こちらの切り札を出すだけですから」
「切り札って……?」
「それは、内緒です!」
工藤が楽しそうに笑ったところで、隆文と達也が戻って来た。
「お待たせしましぃいいいいい……っっっ!?」
若干疲れた顔で院長室に入ってきた隆文が、工藤を見た瞬間、口をパクパクとさせて固まった。
「どうも、お久しぶりです、上代さん」
工藤が隆文に向かって、ひらひらと手を振った。
「……く、工藤くん!?なぜここにいるんだ!!」
「なぜ?そりゃぁ、私の大事な患者が階段から落ちて運ばれたと聞いたのでね。様子を見に来たんですよ。無事でよかったですが、まだ眠っているようですね。今の状態では研究所に運ぶことはできないので、今日のところはそろそろ帰ります。また雪夜くんが目を覚ましたら様子を見に来ますね」
「待ちなさい!雪夜の担当はもうきみじゃないはずだが?」
「上代さん?それを決めるのはあなたじゃないですよ。研究所には研究所のやり方があります。お忘れですか?」
穏やかに圧をかけてくる工藤に、隆文が少したじろいだ。
「また、様子を見に来ますね。くれぐれも、雪夜くんの容態に気を付けて下さい。急変する可能性がありますからね」
「そんなこと、きみに言われなくてもわかっている!!」
「では、また」
工藤は夏樹たちに軽く流し目を送って、風のように去って行った。
うん、何かまた変なのが増えたな……
***
「麻酔が切れればすぐに目を覚ますだろう」
隆文たちは、そう思っていた。
だが、隆文たちの予想に反して、雪夜はその後も眠り続けた。
一週間、二週間……何の反応もないまま、ただ眠り続けた……
雪夜が目を覚ましたら、今回のことを謝って、会えなかった間の雪夜の話を、もっといっぱい聞きたいと言っていた達也と慎也だったが、結局、雪夜と話すことが出来ないまま、またそれぞれの勤務地へと旅立った。
***
「まだ目を覚まさないんですね……」
隆文の目をかいくぐって、工藤はしょっちゅう様子を見に来ていた。
と言っても、雪夜の体調に変わりがないのを確認すると、すぐに帰ってしまうが……
夏樹は、雪夜がいつ目を覚ますかわからないので、ずっと付き添っていた。
斎たちが心配して一日に数回交替しにきてくれるので、その間だけ雪夜から離れて自分の用事を済ませている。
最初は、夏樹が雪夜の部屋へ入れないように、面会謝絶にされたこともあった。
二人の交際を認めたくない隆文たちの、くだらない嫌がらせだ。
だが、それでも毎日通っていると、そのうちに、看護師たちがこっそりと部屋へ入れてくれるようになった。
これは、夏樹について来た斎たちが、どうせ部屋に入れないからとナースステーションでいろいろと情報を得る傍ら、看護師たちに愛想を振りまいてくれたおかげだった。
夏樹が来なくなると、斎たちにも会えなくなる。せっかくの癒しに会えなくなるのは困る!と言うことで、看護師たちが隆文に抗議をしてくれて、結局隆文が根負けし、夏樹が付き添うことに同意したのだ。
そんな中、雪夜は変わらずに眠り続けていた――……
***
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