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夜明けの星 番外編1-2(夏樹)

 映像は、エフェクトやBGMを使ってちょっと弄ってあったが、基本的には写真と動画を組み合わせただけの、結婚式や卒業式で流れていそうなごくシンプルなものだった。  でも、その場にいた誰もが、映像に釘付けだった。  なぜなら…… ***  『~Smile~』    というタイトルの後、映し出されたのは晃の店。  晃がカメラ片手に奥の部屋を覗くと、斎と裕也が誰かを囲んで楽しそうに服を選んでいた。  夏樹は、二人に弄られている見慣れた後ろ姿に思わず口元を綻ばせた。 「――ゆ~きちゃん!こっち向いて?」    晃の声に、雪夜が振り向く。  雪夜が斎と裕也の着せ替え人形になっているところを見ると、あの船上パーティーの時のかな……? 「はーい!って、え、ななな何ですか?」  晃が何か撮っていることに気付いて、雪夜が一瞬手で顔を隠した。 「はい、笑って笑って~?」 「え?あの、えっと……こうですか?」  雪夜が戸惑いながらも、笑ってピースをする。   「うん、可愛い!でも雪ちゃん、これ動画だから動いていいんだよ?」 「ええ!?ちょ、それ先に言って下さいよ!!恥ずかしっ!!――」  照れて赤くなっている雪夜がフェードアウトして、次の画像に切り替わった――…… ***  流れて来る映像には、そんな風に兄さん連中に不意打ちをされた雪夜がたくさん映っていた。  というより、そんな雪夜しか映っていなかった。  動画は時期も場所もバラバラで、数秒のものから数分のものまでさまざまだ。  でも、どの雪夜も、笑っていた。  はにかんだり……  喜んだり……  驚いたり……  ちょっとおどけたり……  壁一面に映し出されていく雪夜は表情豊かで、終始楽しそうだ。  そんな雪夜を観ながら、その場にいた誰もが笑顔になっていた。  夏樹も、雪夜の笑顔につられて笑っていた。  笑いながら、泣けてきた――  そうだ……雪夜はこんな風に笑うんだったな……  夏樹は以前、工藤が「人の記憶は曖昧なものだ」と言っていたことを痛感した。  夏樹は記憶力は良い方だと思う。  それでも……  あれからおよそ二ヶ月間、管を通された痛々しい雪夜の寝顔しか見ていないせいか、自分でも気がつかないうちに、夏樹の中でのは、現在の寝顔の方がデフォルトになってしまっていたらしい。  雪夜は今……笑うことも泣くこともできない。  だけど、雪夜は生きている。  身体は温かいし、呼吸もしてるし、心臓だってちゃんと動いている。  雪夜はきっと、明日にでも瞳を開けて、またこんな風に笑ってくれる……  笑ってくれる……よね……?  夏樹が雪夜の手をそっと握りしめた時、また映像が変わった。  場所は夏樹の部屋。  雪夜は……酔っ払っていた――…… ***  

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