363 / 715
夜明けの星 番外編1-3(夏樹)
「――でね~?クマしゃんきいてるぅ~!?なちゅきしゃんはね~、かっこい~んだよ~!」
焦点の定まらない目で雪夜がカメラ、もとい、クマの目を覗き込む。
「めちゃくちゃやさし~し~、おりょーりもじょーずらし~、さいこーれしょ~?」
『え~、でもさ~、そんなにいい男だと浮気とか気にならないクマ?』
突然、加工された可愛らしい声でクマが喋り出した。
おい、クマ!?っていうか、裕也さんだろコレ!
何喋ってんだ!?いきなりクマのぬいぐるみが喋ったら雪夜がびっくりするだろ!?
しかも何その語尾!!
夏樹の心配をよそに、雪夜は……
「あれ~?クマしゃんおしゃべりじょーずね~!」
と、喜んでクマのぬいぐるみに抱きついた。
さすが酔っ払い……
「あのね~、うわきはね~……きになるけど、きにしなーいのっ!だっておれ おとこらからね!」
いや、気にして!?男とか関係なく気にしよう!?
『なんで気にしないクマ?』
「なちゅきしゃんはモテモテなんれしゅ!だから……おれがひとりじめしちゃらめなの!」
『クマわっかんな~い!だって好きなんでしょ~?独り占めしちゃえばいいクマよ~!』
「むぅ~りぃ~!」
『クマ~?』
「……らって……なちゅきしゃんは~……やさしくてぇ~……――」
酔いが回ったのか、だんだんと会話が成り立たなくなっていく。
半分夢見心地の雪夜が、クッションを抱えてソファーにもたれた。
そのまま寝落ちするのかと思いきや、一度閉じた瞳を薄く開いてクマに微笑んだ。
***
「あのねぇ~……ゆきくんはね、だめなこなの」
雪夜の声が少し変わった。
酔ってはいるみたいだが、先ほどよりは呂律が回っている。
でも、発音がたどたどしい。それに……
ゆきくん?
雪夜が自分のことを『雪くん』と呼んでいたのは……子どもの頃……
『何がだめクマ?』
「うまれてきちゃだめなこ。ねぇねがいってた。ゆきくんはみんなをふこうにするんだって。だからいきてちゃだめなんだって」
雪夜の言葉に、病室内が凍り付いた。
***
「おい、ユウ!?」
裕也の傍にいた晃が一時停止ボタンを押し、浩二たちが困惑顔で一斉に裕也を見た。
兄さん連中にしても、この動画は予想外だったらしい。
「うん、わかってるよ。話は後で聞くから、まぁ、とりあえず見てみようか!ね!」
裕也は全員の困惑した視線を浴びながらも、一向に気にしていない様子で、意味ありげに含み笑いをしながら、続きを見よう!と言った。
みんなはちょっと苦い顔をしながらも、裕也がそう言うからには、何か理由があるのだろうと、ひとまず元の位置に戻った。
夏樹は、余裕の笑みを浮かべる裕也の横顔をそっと眺めた。
裕也は、兄さん連中の中でも特に、何を考えているのかわからない人物だ……
裕也さんは一体なにを俺に見せたいんだ?
それに、これって……雪夜は、この時……記憶が……?
全員が元の位置に戻ったのを確認して、裕也が再生ボタンを押した――……
***
ともだちにシェアしよう!