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夜明けの星 番外編1-4(夏樹)

――ねぇねがそんなこと言うクマか?』 「うん、オニさんもいってた」 『鬼さんがいたクマ!?』  鬼?たしか、慎也が、雪夜は助け出された後、周囲の人間が鬼に見えてたらしいって言ってたけど……今、雪夜が言った鬼はもしかして…… 「あのね~……ねぇねにしんじゃえってどーんってされて……おきたらオニさんがいたの」 『その鬼さんは何か言ってたクマ?』 「う~ん、オニさんはね~まっくろくろなんだよ~!……オニさんはゆきくんがわるいこだから、ねぇねがしんじゃったんだよ~って……」  やっぱり、雪夜たちを監禁してた犯人(サイコキラー)かっ!! 『鬼さんに何かされたクマ?鬼さん怖いクマ?』 「オニさんこわいよ。すごくこわいの!……ゆきくんがイタイってないたら、もっとイタイイタイするの!……それでね、ゆきくんのせいでね、みんなしんじゃうんだって。ゆきくんがね……がんばらないとね、ねぇねみたいにみんな……みんなが……っ!だ、だからね……っ」  雪夜の顔がぐしゃっと崩れて、大きな瞳から涙が零れた。  っ……!! 「「そういうことか……」」  夏樹と斎が、同時に呟いた。  思わずお互い視線を交わして、軽く頷いた。  まだ幼くて人一倍身体の弱かった雪夜が、どうしてあんな状況の中、一ヶ月半も耐えることが出来たのか……?  雪夜はずっと家族を守ろうと必死だったんだ。  自分が頑張らないと今度は家族がに捕まってしまうから……  雪夜は聡い子だったらしいので、平常時ならばもしかしたら犯人の言うことがおかしいと気がついたかもしれない。  だが、この時雪夜は、その直前に姉に存在を全否定、全拒否されてショックを受けていた。そのせいで、簡単にマインドコントロールされてしまったのだろう。    でも、下手に逆らわずにいいなりになっていたことと、鬼から家族を守らなければ!という強い想いが、結果的に雪夜の生存に繋がったとも言える…… 『そかそか、雪くん頑張ったクマ!すごいクマ!』 「ゆきくん、すごくないの……だってね、ゆきくん、おやくそくやぶっちゃった」 『約束?鬼さんと?どんな約束したクマ?』 「にんげんとあったり、おしゃべりしたりしない。おやくそくやぶったら、にんげんはみんなオニさんになるぞって……」 『みんな鬼さんになるクマ?』  それは……助けを呼ばせないための簡単で残酷な呪いの言霊(暗示)。   「そうだよ~?でも、にんげんのこえがきこえたの!ゆきくんはね、こないで!っていったんだよ?オニさんなっちゃうからダメ!って。ゆきくんがんばったけど……にんげんきちゃった。そしたら、ホントにオニさんになっちゃったの……ゆきくんが……おやくそくやぶったから……」  雪夜は、半年経って目を覚ました時も、恐らくまだその暗示が効いていて、周囲の人間がみんな鬼に見えたのだろう。  そして、みんなを鬼にしてしまったのは自分のせい。自分が約束を守って喋ってしまったせい……と思い込んでしまった。  おそらく、そのことが、声が出なくなった要因のひとつなんだろうな。   『そいつは悪い鬼さんクマ!クマがその鬼さんやっつけてやるクマ!!まずはクマパぁああああンチ!そして、クマキぃいいいック!次は――……』  裕也にしては珍しく、少し感情的になっていたので、驚いた。  裕也は、どこかで誰かが揉めていると聞けば、今でも率先して出て行こうとするくらい荒事が大好きだが、他人のために怒るということはめったにない。  可愛い声のクマが物騒な言葉を並べ立てるのを、酔っ払い雪夜がふにゃっと笑いながら目を閉じて、身体を左右に揺らしながら聞いていた。  あれ?今度こそ寝ちゃう?と思った矢先、突然、雪夜がクマのぬいぐるみを抱きしめた――…… ***

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