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夜明けの星 番外編1-6(夏樹)

 ベッドで眠っている雪夜の寝顔を見つめていた夏樹は、そういえばまだ映像が終わっていないことに気がついた。  まだ続きがあるのか?  夏樹が壁を見ると、ちょうど酔っ払い雪夜がフェードアウトして、文字が飛んできた。 『……で、どうだった?なっちゃん』  ん?なにが?  首を傾げる夏樹に、裕也が壁の斜め下を指差した。  裕也の示す先をよく見ると、何か書いてある。  夏樹が目を凝らすと…… 『あ、そうそう、誕生日お・め・で・と~!』  ……いや、ちっせぇよ!!  夏樹がツッコむのと同時に部屋の電気がついた。 「……で、どうだった?なっちゃん」  裕也が、文字と同じことを言ってきた。 「裕也さん……」 「どうだった?」 「あの……これって……」 「もちろん、なっちゃんの誕生日プレゼントだよ?ちゃんと誕生日おめでとって書いてあるでしょ?」  たしかに書いてましたけどっ…… 「文字小さすぎでしょ!?っていうか、雪夜は可愛いかったけど……可愛いに決まってますけど……もちろん可愛いけれども!?いろいろツッコミどころが多すぎて感情が追い付かないですけど!?」  暗いうちは良かったが、室内が明るくなると改めて集まっている人の多さに驚く。  一応涙は止まっていたけれど、たぶん泣いていたのはみんなにバレているはずで……気まずさから裕也にちょっと八つ当たりをした。 「なっちゃんったら、照れちゃって~」 「まぁ、ナツ。一応誕生日おめ~」 「あ、とりあえず、おめっとさん」 「夏樹さん、はぴばー!――」  夏樹と裕也のやり取りを見ながら、取って付けたようにその場にいた全員が、それぞれに祝いの言葉を口にした。  バラバラすぎて何を言っているのかほぼわからないが…… 「あ~はい。ありがとうございます」 「うん、まぁ、誕生日はどうでもいいんだけど……」 「いや、どうでもいいって何ですか!?俺の誕生日祝いだったんじゃないの!?」 「え?あぁ、とりあえずそのつもりだけどね?まぁ、今日集まったのも、なっちゃんの誕生日を祝うためだし?」 「んん?」 「なっちゃんがさ、雪ちゃんに付きっきりでだいぶ精神的に参ってるから、元気にしてあげようと思って、みんなのから、とびきりの雪ちゃんスマイルを集めてみました!」 「裕也さん……俺別に参ってないですけど?」 「やれやれ……ナツ、おまえ最近ちゃんと鏡見てるか?ひっどい顔してるぞ?」  夏樹が困惑していると、ため息交じりに斎が夏樹の頬をペチペチと撫でてきた。  他の兄さん連中も、呆れたように苦笑する。  自分では……大丈夫だと思っていた。  雪夜の世話をするのは慣れているし、付きっきりになるのも…… 「あのな、ナツ。お前が雪ちゃんの面倒見るのに慣れてるのは知ってる。でも、いつものは不安定になっていても雪ちゃんはちゃんと起きて会話が出来てるだろ?昏睡状態(現状)の雪ちゃんの世話をするのとは全然違う。いつ目を覚ますかもわからない、もしかしたら、このまま眠ったままかもしれない……先の見えない不安を抱えたままずっと傍についているのは、思ってる以上に精神的にダメージ食らうんだよ。雪ちゃんの母親が病んだ原因の一つはそれだからな?」 「俺は……」  俺は……雪夜はすぐに目を覚ます。絶対に目を覚ますって信じてる。  今はちょっと寝坊してるだけで……  雪夜は……だって、さっきも雪夜は「目を覚ますと夏樹さんがいるから大丈夫」って言ってたじゃないか。  だから、目を覚ました時に傍についててやらないと……  だって、俺にできることってそれくらいしか…… 「ナツ、お前は家に帰れ。っつっても、急には無理だろうから……そうだな、とりあえず、一週間に一回は家に帰って寝ろ」 「斎さん、でも……っ」 「じゃねぇよ!ここに来るなとは言わない。だけど、ずっとここに居るのはだめだ。雪ちゃんが目を覚ました時に、お前が傍にいてやりたい気持ちはわかるけど、今のお前を見たら雪ちゃんはどう思うか考えてみろ。前回入院した時も言っただろ?お前が元気でいなきゃちゃんと支えてやることなんて出来ないんだよ。なぁ、ナツ。頼むから、もっと自分を大事にしてくれ。……お前のことを心配してるやつだっているんだぞ?」  斎が一瞬泣きそうな顔をして眉間に皺を寄せると、夏樹の頭をガシガシ撫で、顔をちょっと振って周囲を指した。  兄さん連中が「そうそう」と軽く頷き、相川たちも「うんうん」ともっともらしく頷いた。  まったく……兄さんたちには敵わねぇな…… 「わかりました。面倒かけてすみません」 「よし、いい子だ」  斎が子どもを相手にしているように優しく言うと、夏樹の頬を指でムニッと挟んだ。 「ふぁふぃふうんふぇふふぁ(なにするんですか)!!」 「頬もこけてるぞ。もっと食え。こんな頬じゃ挟みがいがない」 「ふぃふぃふぁふぇんふぉ(しりませんよ)――」 「なっちゃん、はいコレ」  夏樹が斎とじゃれていると、裕也がディスクの入ったケースを渡して来た。 ***

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