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夜明けの星 番外編1-8(夏樹)
やけに盛り上がる兄さん連中に完全に置いて行かれた夏樹が、ポツンと虚無の表情で佇 んでいると、ポンと肩を叩かれた。
「夏樹さん、どんまい!!」
振り向くと、相川と佐々木がニンマリしながら立っていた。
「あぁ、そういやお前らもいたんだっけ」
「ひどっ!!せっかく俺らの持ってる雪夜の写真、あげようと思ったのにな~。いらないんだ?」
佐々木が大学で撮ったらしい雪夜の写真を携帯の画面に映し出して左右に振った。
「すみません!ごめんなさい!めちゃくちゃ欲しいです!ください!」
「どうしよっかな~」
「今度何か奢 る!奢らせて下さい!」
「回ってない寿司っ!」
間髪入れずに佐々木が叫んだ。
こいつ……最初からそのつもりだったな?
「わかった、回ってない寿司な」
「よっし、言質 取った!録音したから、絶対な」
「おまっ……そういうことする!?」
「裕也さんの教育の賜物 です」
少し離れた場所で、裕也が佐々木に向かって親指を立てて笑っていた。
嫌な組み合わせだなぁおい……
佐々木たちは、夏樹が寿司を奢る約束をした後、ちゃっかり日時と店まで決めてから、ようやく雪夜フォルダを送ってくれた。
よし、これで雪夜の写真と動画がいっぱい……全部俺に向けての笑顔じゃないけど!!
いいもん……雪夜が起きたら、今度は写真も動画もいっぱい撮らせてもらうし……!!
***
夏樹は、大学での雪夜の写真に一通り目を通して、ホクホクしながら顔を上げた。
室内を見回すと、兄さん連中も佐々木たちもみんな楽しそうに話していた。
夏樹は今まで、兄さん連中に誕生日パーティーをしてもらったことはない。
せいぜい、電話かメールで「おめでとう」と言ってもらって、次に会った時に何かプレゼントをもらうくらいだった。
だから……
兄さん連中が今日、わざわざここに集まってくれたのは、やっぱり夏樹を心配してのことなのだろうと思う。
それと……きっと雪夜のため。
みんなで楽しそうにしてれば、雪夜も目を覚ますかもしれないから……
それにしても、主役 の扱いみんな雑じゃないか!?
みんなの気持ちは嬉しいが、俺の誕生日祝いのはずなのに、上映会が終わった途端に俺が放置されているのは解 せない……別に、誕生日を盛大に祝ってもらいたい年でもないからいいけど!?
あれ?もしかして、みんな俺のためじゃなくて、上映会 を観たかっただけ?
「……」
まぁ、いいか。
こんな誕生日も……悪くない。
ある意味、一生忘れられない誕生日になったよ、雪夜。
夏樹は雪夜の手を握りながら、話しかけた。
「雪夜からの誕生日プレゼントは……いつになったらもらえるのかな?」
去年の誕生日プレゼントは雪夜の手作りオムライスだったよね。
今年の誕生日プレゼントは……俺からリクエストしてもいい?
――雪夜が目を覚まして、また俺に笑顔を見せてくれること。
それが俺にとって最高のプレゼント。
他には何もいらないから……
だから……ね、早く起きておいで……?
《~All I want is you ……
俺が欲しいものは……何よりも望むものは……きみだけ……~》
***
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