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夜明けの星 5-6(夏樹)

 検査室に入っていく雪夜を見送った夏樹は、急いで斎たちや工藤に連絡を入れた。   「――それで、雪ちゃんの様子は!?」  若干興奮気味の斎とは対照的に、夏樹は先ほどの出来事が信じられなくて、ふわふわと夢の中にいるような感覚だった。 「おい!ナツ?大丈夫か!?」 「え……あ、はい。すみません。えっと、今のところはわかりません。目を覚ましたのは一瞬で……でも、上代(かみしろ)もちゃんと外部からの刺激に反応を返してるから、昏睡状態からは目覚めてるはずだって……」 「目を覚ました時にお前の名前を呼んだって?」 「はい、声は出てなかったけど、口は確かに、ナツキサンって……でも、見間違いかも……」  半年間、待ち続けていた瞬間なのに……  頭がついていかない。    雪夜が目覚める夢で喜んで……  雪夜が目覚めない夢で泣いて……  眠る度に一喜一憂を繰り返しては、やりきれない想いに顔を覆う朝……    何が現実なのか夢なのか……さっき見た雪夜はどっちだ……?  自分自身が信じられなくなる。  あぁ、そうか……雪夜はずっとこんな状態だったのかな……  混乱していた夏樹を現実に呼び戻したのは、雪夜の叫び声だった。 「――――――ッ!!!」  喉の奥から絞り出すような甲高い叫び声。  電話をするために検査室からは少し離れた場所にいたが……それでも微かに聞こえてきたその声に、慌てて電話を切って耳を澄ました。    ……雪夜が呼んでる……っ!  そう思った瞬間、夏樹の足は検査室に向かっていた。  客船での事故の後、病院で目覚めた雪夜は、やはり医師や看護師に怯えて、叫んで暴れて大変だった。  あの時は夏樹のことがわかっていたので、パニックになりながらも夏樹の名前を呼んでいたが、今回は……  どうやら、言葉らしい言葉は出ておらず、ただひたすらに喉の奥から声を絞り出すようにして叫んでいるようだった。 *** 「すみません、雪夜の様子は……?」 「今入らないで下さい!!危険です!!」  看護師が、検査室のドアを開けて顔を見せた夏樹を慌てて外に追いやろうとした。   「雪夜、目を覚ましたみたいですね。パニックになってるでしょ?」 「そ、そうなんです!あの、MRIを撮ろうと身体を移したところで目が覚めて……それで今ちょっとパニックを起こしているようなので……でも大丈夫ですから!!」  夏樹を押し戻そうと頑張っている看護師の頭越しに中を覗くと、ちょうど数人がかりで雪夜を押さえつけて、恐らく鎮静剤を注射しようとしている隆文の姿が見えた。 「やめろっ!」  夏樹は咄嗟に叫んでいた。  看護師を押しのけて中に入ると、大股で隆文に近付き、注射器を持っていた方の手首を叩いた。  本当は蹴り倒したかったが、隆文は院長だし、雪夜の義父だし……夏樹なりに気を使った結果、手首を軽く叩くだけにしたのだ。  手首を手刀で叩かれた隆文は、注射器を床に落とした。 「何をする!?」 「あんたこそ何しようとした!?ようやく目を覚ました息子をまた眠らせようってか!?ふざけんのもいい加減にしろよっ!!」 「少量だから大丈夫だ!だいたい、この状態じゃあの子も我々も危険だし、どうにもならないだろう!?きみこそ、雪夜の状態をちゃんと見てみろ!!」  隆文は、怯えて泣き叫びながら手あたり次第に物を投げたり手を振り回したりして、大暴れをしている雪夜を指差した。 「落ち着かせればいいんでしょう?俺が落ち着かせます!……少しの間、二人だけにしてください。気になるなら、そっちの部屋から見ていればいい。ほら、外に出て!」 「何を言って……あ、ちょ、こらっ君たちまで!?」  夏樹は、看護師たちに手伝ってもらいながら、文句を言う隆文を外に追い出した。 ***

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