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夜明けの星 5-17(夏樹)

「それじゃあ、俺は……部屋に帰ります。雪夜をベッドに寝かせないと……」  夏樹が雪夜を抱っこしたまま立ち上がると、隆文たちが慌てた。 「いや、だから……きみは話を聞いていたかね?」 「はい。聞いてましたよ?それに、もう一度よく考えました」 「それで……?」 「答えは変わりませんよ。俺は雪夜と別れません。あなたの言う通り、先のことなんて何があるかわからない。でも、何があったとしても、俺は雪夜を手放す気はありませんし、他に目移りすることもない。あなたが二十年前、精神を病んだ涼子さんと雪夜を守るために覚悟を決めたように……俺も、雪夜を一生守るための覚悟はとっくに決めてますから」 「……そうか」 「なにより……俺の方が……雪夜がいなけりゃダメなのは、俺の方ですよ」  依存してるのは、俺の方だ……その自覚はある。  傍から見れば、雪夜が俺に依存しているように見えるかもしれないけれど、今雪夜と引き離されたら立っていられなくなるのは……俺の方だ―― 「……良かった……」  隆文が夏樹をチラッと見て、ちょっと口元を綻ばせるとポツリと呟いた。 「え?」 「ほらね?僕たちが言った通りでしょ?」  裕也がにっこりと笑った。  まぁ、座れ。と夏樹をもう一度座らせながら、斎もフッと笑って隆文を見る。  んん!? 「あぁ、いや、きみたちからも聞いていたし、私もわかってはいたが、やはり……大事な息子の一生を預けるんだ。一応は本人に確認しておかないとな」 「納得しましたか?」 「あぁ」 「さて、それじゃ以前話してた続きですけど、雪ちゃんが退院するにあたって――……」 「え、あの、斎さん?一体何の話を……」  戸惑う夏樹を横目に、斎と隆文が勝手に会話を進めていく。 「ん?だから、雪ちゃんを退院させた後の話だよ~。ね~!」  裕也が、当然のような顔で言うと、寝ている雪夜の頬をぷにっと押した。 「え、雪夜を退院って……?」 「さっき先生も言っただろ?研究所に戻すっていうのは選択肢の一つだって」  そういえば、選択肢の一つだと言っていたけれど…… 「お前の返答なんて最初からわかりきってるからな。雪ちゃんを退院させるって話が出た時に、研究所の話は即行で消えたんだ。でも、退院してもまだまだ今の状態では普段の生活に戻るのは難しいだろ?それならまた前みたいに詩織さんの別荘で静養させるかって話になってな」  なんですと!? 「この話自体は、もう一ヶ月以上前に出てたんだよ。んで、詩織さんにも許可取って、雪ちゃんを別荘に連れて行く上で必要な事前準備について、センセーたちといろいろ相談してたんだよ。例えば、雪ちゃんが歩く練習をする時の手すりつけたりとか、バリアフリーにしたりとかね~」  はい!?  っていうか…… 「え、あの、斎さん?そこまで話しが進んでるんだったら、こんな大騒ぎしてまで俺をここに呼び出さなくても……」  “雪夜待ち”のこの数時間は一体何だったんだ…… 「先生がどうしてもお前の口からちゃんと覚悟を聞きたいっつーし、俺たちにしても……お前の気持ちはわかってるつもりだけど、内容が内容だけに、やっぱり俺らが勝手に決めるわけにはいかねぇだろ。お前の意見も聞いておいた方がいいと思ってな?」 「あ~……はい、そうですね……」  いや、もう十分勝手に決めて話進めてると思いますけど!? 「ま、今の先生たちの話を聞いて、お前が雪ちゃんを研究所に戻すのに賛成するようなら、俺が問答無用でお前を殴り飛ばしてたけどな?ははは」 「んでもって僕に屋上から吊るされてたよね~!あはは」 「ちょ!?」  え~もう!何だこれ!?どういうことだよっ!?  つまり、さっきのはみんなして俺を試したってことですかあああっ!? 「あ……ははは……は……」  夏樹は混乱する頭を両手で抱えると、爽やかに笑う斎と裕也に引きつった笑みを返した。 ***

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