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夜明けの星 5-18(夏樹)
隆文たちに試されてからおよそ一か月後……
「雪夜~!?何してるの!?ここ開けて!?」
「~~~~っっ!!」
「鍵開けて!雪夜ってば!!俺だよ!?夏樹だよ!?」
夏樹は先ほどから雪夜に締め出しをくらっていた――……
***
「はいは~い、呼ばれて飛び出て裕也さんだよ~!で、どした……のぉおおわっ!?」
「裕也さん!部屋の中見せて下さい!どうせあっちこっちにカメラ仕込んでるんでしょ!?」
いつもの調子でやってきた裕也の言葉を聞き終わる前に、夏樹は裕也の胸倉を掴んでガクガクと揺さぶっていた。
「ちょちょちょ、待って、待ってってばっ!!なっちゃんっっ!!」
「ぅぐっ!!」
夏樹は裕也に思いっきり鳩尾 を殴られて、その場に崩れ落ちた。
「ったくもう!いきなり何なの!?」
「~~~~っ……!」
「なっちゃん?何があったの?」
「……っ……」
説明しようとしたが、久々に裕也の本気の拳を受けて息が出来ず、とりあえず雪夜のいる特別室を指差す。
「ん?部屋がどしたの?雪ちゃんは?」
「っ……な、中に……」
「もぉ~!ちゃんと話してよ!雪ちゃんがどうしたの!?」
「ゲホッ……あ゛~~キッツ……裕也さんちょっとは手加減してくださいよ……」
「何言ってるの、だいぶ加減したよ~?利き手じゃないし。なっちゃん鍛え直した方がいいんじゃない?」
「マジっすか……あ、それより、カメラ!ちょっと、室内 の様子が知りたいんです!」
「何で?」
「さっきから雪夜が立てこもりしてるんですよ――」
裕也は、立てこもり!?と驚きながらも、鞄からタブレットを取り出し室内の様子を映し出してくれた。
「ん~、ベッドの上にいるねぇ」
裕也の言う通り、画面には、ベッドの上で膝を抱えて座っている雪夜の姿が映っていた。
「何だかご機嫌斜め?何があったの?」
「わからないです。今朝からちょっと機嫌が悪いな~とは思ってたんですけど……朝食の後、お薬飲んで――……リハビリの先生が来たので、雪夜に、ちょっとお話してくるねって一声かけて廊下で話してたんですよ。で、話が終わって中に入ろうとしたら、なぜか鍵を閉められてて……」
「ふ~ん……鍵開けようか?」
「いや……中の様子が見えるなら、しばらく待ってみます」
実際、鍵を開けるのも、扉をぶち破るのも簡単なのだ。
だが、雪夜がどうしてこんなことをしたのかがわからないと、無理やり部屋に入っても怯えさせてもっと拒否られるだけかもしれない……
***
夏樹と裕也は、廊下のベンチに腰かけて室内を覗き見しながら原因を探ることにした。
「う~ん……今までなっちゃんを締め出すなんてことはなかったよねぇ……」
「はい……」
その日の気分や体調次第で他の人間を拒否することはあっても、雪夜が夏樹を拒否するのは……最初の検査室でのあの時以来だ。
「最近何か変わったこととかなかったの?」
「最近ですか?あ~……」
ここ数日、退院に向けて部屋を片付けたり、隆文たちと今後の治療方針について話し合ったりと人の出入りが激しかったせいか、雪夜が落ち着かない様子だったことには気づいていた。
でも、夏樹は雪夜が退院できるということの方に頭がいっぱいで……それに雪夜から離れて用事をしていることの方が多かったかもしれない……
「それってさぁ~……」
「俺が傍にいなかったのがダメだったんですかね?」
「う~ん……それもあるだろうけど……うん、まぁとりあえずもうちょっと自分で考えてごらん?」
夏樹の額を軽く人さし指で押しながら裕也がにっこりと笑う。
「え、裕也さんわかったんですか!?」
「うん、多分ね。でもまぁ、当たってたとしても僕じゃどうにもできないから」
「いや、わかったなら教えてくださいよ!」
「……僕が教えていいの?自分で考えた方がいいんじゃない?」
童顔で高校生に混じっていても違和感がないような裕也が、珍しく年上らしい顔で夏樹を見た。
「ぅ゛……っ」
たしかに……自分の恋人のことなのに、他人に教えられるのはちょっと情けない。
……とは思うけど……
「わかりました。自分で考えてみます」
「よしよし、いい子だね~」
「裕也さん、せめてヒント……」
「ぁあ゛?」
「スミマセン、ナンデモナイデス……」
ヒントくらいくれてもいいじゃないか……ケチっ!
***
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