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夜明けの星 6-10(夏樹)

「あぁ、髪ね。そうだなぁ……別に俺が切ってもいいんだけどな」  雪夜の散髪の相談をしてみたところ、斎が少し考えつつボソッと呟いた。 「え?斎さんも切れるんですか?」 「さぁ?菜穂子(なおこ)の髪以外は切ったことねぇけど、やればできるんじゃね?あ……バリカンで刈るのはやったことあるぞ?」 「それは見せしめ的なアレのことでしょ……」  兄さん連中は昔、ケンカを吹っ掛けてきた奴らに教育的指導を入れる時に、よくバリカンで刈り上げていたという話を聞いたことがある……  っていうか、今サラッと言ったけど、なお姉の髪って斎さんが切ってるの!? 「まぁ、それは冗談だけど、そんじゃアキに連絡してみるか」  どれが冗談なんですか!?  いろいろとツッコミたいことはあったが、話が進まなくなるので敢えて黙っていた。 「あ、でもその日の雪夜の機嫌によるから、来てもらっても会えるかどうかはわからないんですけど……」 「それはわかってるよ。でも、そろそろ他の連中とも会わせてみたいってことだろ?ま、もう半年近く経つし、だいぶ落ち着いてきてるしな。とりあえずアキを呼んでみて様子を見てみようぜ。もしダメだったら別に焦って切らなくてもいいじゃねぇか。雪ちゃん髪長いのも似合ってるし」 「そりゃまぁ、雪夜はどんな髪型でも似合いますけど!」 「はいはい――……あ、アキ?俺だ。お疲れ~。あのさ――……」  斎は手短に電話を済ませると「アキ来るってよ」と、夏樹を見た。 「え、ちょっ……今からですか!?晃さん店は!?」 「あ?来れるって言ってたから大丈夫だろ。それに今日は雪ちゃん機嫌良さそうだからな」  まぁたしかに、雪夜の機嫌や体調は日によって違うので、先の約束は出来ない。  晃さんが今日来てくれるっていうなら、その方がいい……ただ……  夏樹は時計を見た。  現在夜の6時過ぎ。  今から晃さんの店からここまで来て貰って、二人を会わせて、雪夜が晃さんに慣れてから髪を切るところまで……何時間かかる? 「髪を切る頃には雪夜寝てるかもしれないですね」 「寝たら寝たで切りやすいんじゃね?」 「あ……それもそうか」  雪夜が寝たら、夏樹が抱っこして切って貰えばいいだけだ。  病院では最初の頃はそうやって切って貰っていたし。 「アキが来るまでまだ時間あるし、先に晩飯食うだろ?今日の晩飯どうする?」 「今日は雪夜が機嫌いいし、固形食もいけそうだから――……」  夏樹は、斎と晩飯の相談を始めた。 *** 「お~っす、来たよ~ん」  晃は、8時前にやって来た。  斎が入口まで晃を出迎えに行った。 「早かったな、客いなかったのか?」 「はいなかった。コージとユウが来てたんだけど、お前に呼び出されたっつったら、ついて来た」 「なんだ、あいつらも来てるのか」 「二人はあっちで酒飲んで待ってるってさ」 「そかそか、お~い、ナツ!入るぞ」 「は~い、どうぞ」  斎が晃を連れて部屋に入って来る。  晃はバーテンの恰好のままだった。  本当に店から直で駆けつけてくれたらしい。  雪夜には晩飯の後、これから晃が来ると伝えてはあったのだが、やはり晃を見ると驚いて夏樹にしがみついて来た。 「大丈夫、晃さんだよ」 「雪ちゃ~ん、久しぶり。晃さんだぞ~?俺の声忘れちゃったか?」  晃が少し離れた位置でくるりと一回転をした。  晃は、浩二とはまた別のチャラさがある。   「雪夜、髪チョキチョキしてくれた晃さんだよ、思い出せない?病院にも何回も来てくれてたでしょ?」 「……?」  雪夜が夏樹の胸に埋めていた顔を上げて、恐る恐る晃を見る。 「お、目が合った!あれ?照れてるの~?そんなに急いで逸らさなくてもいいじゃんか~!」  晃がちょっと大袈裟な程に、おどけたジェスチャーをする。 「……ところで、今夜は俺と……どう?」  いつの間にか雪夜の目の前に移動してきていた晃が、何も持っていない手を握って軽く振り、パッと開いた。 「!?」  晃の手の上に現れたアメを見て、雪夜が目を大きく開いた。  手先の器用な晃は手品も得意だ。  アメを出したのは初歩的な手品だが、意外とウケがいい。  夏樹らはもう何回も見ているのでわかっているが、雪夜には新鮮だったようだ。  それにしても、今どうやって移動してきたんだこの人……晃さんのスキルも謎すぎる…… 「ん?いや、晃さん!?さりげなくうちの雪夜をナンパしないでください!!っていうか、近いですよっ!!」 「なんだよ、ちょっとくらいいいじゃねぇか。俺は雪ちゃんのために急いで店閉めて来たんだぞ?相応の報酬を貰わねぇとなぁ?雪ちゃんの好きなも持って来てるから、今夜は楽しませてやるよ」  晃がウインクをしながら雪夜にアメを持った手を近づけてきた。 「?」 「ちょっ!意味深な言葉とアメで雪夜を惑わすのはやめてください!」 「でも、アキのことは怖がってなさそうだな」 「え?……まぁそうです……ね」  斎が言うように、雪夜は晃が近付いて来ても嫌がったり怖がったりする様子はなかった。  まぁ……どちらかと言うと、戸惑っている感じ? 「雪ちゃん、アメどうぞ~」 「……?」  晃の手の上のアメを凝視していた雪夜が、どうしよう?という顔で夏樹を見た。  アメは欲しいが、貰ってもいいものかどうか悩んでいたらしい。 「雪夜、貰っていいよ」 「!!」  雪夜は晃からアメを貰うと、ペコリと頭を下げて、夏樹に渡して来た。  袋から出してくれと言うことだ。 「良かったね、いちごのアメだってさ。今食べる?」 「!!」 「で、ついでに髪切ってもらおうか!このアメをくれたお兄さんが切ってくれるんだよ。怖くないでしょ?」 「……」  雪夜が夏樹と晃を交互に見て、アメを見た。 「怖くないよ~?雪ちゃん、髪切るの頑張ったら、後でもう一個あげてもいいよ?」  晃がわざとらしく周囲を見回して内緒話をするように雪夜に顔を近づけると、ニヤリと笑いながら囁いた。  全部聞こえてますけどね…… 「!?」 「切っちゃう?」 「!!」  雪夜のオニへの恐怖心はアメ玉2個に負けたらしい。  雪夜が一つ前進したのは良かったものの、夏樹の心配の種が増えた――……  こんな調子でうちの子大丈夫か!?  お菓子につられて変な人についていっちゃだめだよって、よぉ~く教えておかないと!!   ***

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