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夜明けの星 6-12(夏樹)

 椅子に座らされた雪夜は、少し不安気に三人の顔をキョロキョロと見回していた。  晃に散髪用のケープを巻かれ、益々目の動きが速くなる。  あ~、この顔はいつ逃げようか考えてるな? 「ゆ……っ!?」 「ピャッ!!」  安心させるために夏樹が声をかけようとしたのだが、それよりも早く、雪夜が必死の形相で夏樹に飛びついてきた。   「うわっ!?ちょ……ぶはっ!!……はははっ、雪夜、どうしたの?今めちゃくちゃ早かったねぇ~!!」  雪夜のすぐ前にいたとはいえ、椅子から夏樹までの数歩を今までにない勢いで踏み込んで飛びついて来た雪夜に、思わず三人揃って吹き出した。 「雪ちゃん、今の最速だろっ!!――」 「顔ヤバいなっ、必死すぎ!――」  どうやら、晃がハサミを持ったのを見て、軽くパニックになったらしい。  いくらアメをくれたとは言え、オニが刃物を持ったのだから、雪夜にしてみれば物凄い恐怖だったに違いない。  だが、あまりにも意表をつく素早さと、久々に聞いた雪夜のに夏樹たちには笑いを堪えることが出来なかった。   「はぁ~~……何だ今の!めっちゃ可愛かったな~!あ~……動画撮っておけば良かったぁ~!!」 「そうだな、それに、今の声もう一回聞きたいな~!!」  斎と晃も、涙がにじむほどに笑い転げていた。  みんなが一斉に笑い出したので、急に我に返って恥ずかしくなってきたらしく、夏樹にしがみついていた雪夜が半泣きで夏樹の肩をペチペチと叩いた。 「~~~~っ!!」 「ごめんごめん、怖かったね。ビックリしたよね。あ(いた)っ!ちょ、待って、違うって!みんな、雪夜が可愛いから笑っちゃったんだってば。(いた)たた……」 「お?むくれる雪ちゃんも可愛いなぁ」 「いやいや、斎さん、笑ってないでたふへへ(たすけて)っ!?」  雪夜を抱っこしているせいで夏樹の両手が塞がっているのをいいことに、むくれた雪夜が夏樹の頬をグイっと引っ張った。 「ぅ~……?ほほっはほ?はひ、ほへんははひ(おこったの?はい、ごめんなさい)!」 「~~っ!!」 「雪ちゃん、まぁ落ち着けって。それだとナツが何言ってんのか全然わかんねぇだろ?」 「っ!!」 「ははは、これはダメだな。ナツが抱っこして切るか?」 「ほへはひひへふへほ(おれはいいですけど)……って、こらこら雪夜、喋らせて」  夏樹は、ソファーに座ると、頬を引っ張って来る雪夜の手を外した。 「~~~っ!!」 「はいはい、わかった。ごめんね、怖かったんだよね。ちょっ、(いて)てて、雪夜そこ鎖骨っ!」    夏樹が手を掴んでいるので、頭をぐりぐりと押し付けて反撃してくる。  それがちょうど鎖骨の辺りなので、結構痛い。 「あ~もう!やめなさい!!ちょっと落ち着こう?ね?」  このままでは話が出来ないので、落ち着かせるためにひとまずぎゅっと抱きしめた。 「……っ!!」 「よしよし……大丈夫、怖い鬼なんていないよ。晃さん優しいでしょ?アメちゃんくれたし。うん、でもびっくりしたんだよね……笑ってごめんね」  背中を軽く擦ると、ようやく雪夜が力を抜いた。 「雪夜、髪どうする?俺が抱っこしてたら怖くない?」 「……」  雪夜がジェスチャーで、夏樹の髪をチョキチョキと切る真似をした。 「ん?え、マジで?俺も切れってこと?うそん……」 「お~?いいぞ、ナツも切ってやるよ。よっしゃこ~い!」 「ちょ、晃さん!?」 「先にナツが切ってるの見れば安心するだろ。ほれ、バッサリ切ってもらえ!あ、アキ、バリカン使う時は呼んで?」 「ちょっ、斎さんまで!?っていうか、バリカンなんて使いませんよ!?どこまで短くするつもりですか!!」 「……どこまでって、俺らがやったことあるのはせいぜい一分刈りくらいだよな?」 「晃さん、それもう坊主!!ほぼ坊主(スキンヘッド)!!」  ヤバい!!俺の頭がピンチ!! 「ま、それは冗談だが、とりあえず雪ちゃん連れてここ座れ。おまえの髪切ってるとこ見せりゃいいんだろ?」 「あの、晃さん?毛先だけでいいっすよ!?ホントに、ちょっと切るだけ!!」 「おまえも結構伸びてるじゃねぇか。遠慮すんなって!」  晃がハサミの刃をチョキチョキしながら、ニンマリと笑った。  雪夜に付きっきりなので、散髪に行けないのは夏樹も同じだ。  ただ、夏樹は昔、髪を伸ばしていた時期もあったので、多少伸びていても気にならない。  むしろ、髪は伸びているとゴムでひとまとめに出来るので、その方が邪魔にならなくていい……なんて……ねぇ? 「つべこべ言わずに座れ!」 「はいっ!」  夏樹は、渋々雪夜を抱っこしたまま椅子に座りに行った――  と、まぁ……何気にこれが晃に散髪してもらう時のいつものテンプレだったりする。  さすがに、雪夜がすごい勢いで飛びついて来たのは予想外だったが、ハサミを見てパニックになるのはだいたいいつものことだし、夏樹が晃に切ってもらうのもこれが初めてというわけではない。  入院中も、こうやって抱っこして夏樹の髪を先に切ってみせて、雪夜を安心させてから散髪していたのだ。  かといって、軽く「そうですね、坊主いいですね」なんて言おうものなら、マジで坊主にされるので、そこは全力で拒否るっ!! 「雪夜、俺も髪切ってもらうから、雪夜も一緒に髪切ってもらおうね!」 「!!」  晃が、大きいケープを取り出して、二人一緒に包んだ。  夏樹と一緒に包まれて、雪夜がちょっと嬉しそうに口角をあげる。 「んじゃ、断髪式しますか!」 「晃さん、言葉のチョイス!ちょ、斎さん、バリカンを置きなさい!!何でそんなもの持ってんの!」 「おい、ナツ?あんまりうるさいと手元が狂っちゃうぞ?」 「ぅっ!……ふぁぃ……」  雪夜に散髪は怖くないよ~と教えるためのパフォーマンスなんだから、夏樹があんまりイヤがる姿は見せてはいけないのだが……  ……今日の二人のノリが怖いっ!!終わった時の俺の頭に一体どれだけ髪残ってんだろう……  夏樹は、自分の髪に結構な勢いでハサミが入っていく感触に、思わずそっとため息を吐いた。   ***  

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