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夜明けの星 6-13(夏樹)

 終わって鏡を見ると……肩近くまで伸びていた髪はバッサリとカットされていた。  (あきら)はそのままツーブロックに刈り上げるつもりだったらしいが、(いつき)がバリカンを近づけようとしたら雪夜に怒られたらしく、結局晃がハサミだけでカットしたので微妙に襟足が残った軽いマッシュウルフ系のセンターパートヘアになった。  最初は前髪がだいぶ長めだったが、夏樹は雪夜が整髪料の匂いと触感を嫌がるので普段は髪を弄らないようにしているため、目にかかると鬱陶しいので、もうちょっと短めに切ってもらった。  まぁ……どうせどこに出かけるわけでもないし、坊主じゃないならもうなんでもいい…… 「じゃ、次は雪ちゃんね。雪ちゃんはどうしようかな~?今の髪型も結構可愛いけど……」 「そうなんですよね~、雪夜、これくらいの長さも似合うんですよね~」 「っ!っ!」  雪夜が、ケープの下で手をブンブンと振った。 「ん?どした~?」  斎がケープから手を出してやると、雪夜が夏樹の髪と自分の髪を交互に指差した。 「え、雪ちゃんもこの髪型にすんの?」 「っ!!」  雪夜がうんうんと頷く。 「そりゃまぁ、出来るけど……こいつとお揃いでいいの!?」 「ちょっと晃さん!?それどういうことですか!!」 「どうせなら晃さんとお揃いにしようよ~。ほら、晃さんの髪型もカッコイイだろ?」 「アキより俺だろ。雪ちゃん、斎さんとお揃いにしよ~?」 「……っ!」  なぜかお揃いヘアにしたがる兄さん連中に、雪夜がイヤイヤと首を振る。 「ダメ~?仕方ねぇなぁ、わかった、ナツとお揃いな」 「ふふん!」 「ナツ、やっぱ坊主にしておけば良かったな。そしたら雪ちゃんもお前とお揃いがいいとか言い出さなかっただろうに……」 「ちょっと晃さん!?いや、でもそれでもし、お揃いにしたい、とか言い出したらどうするつもりだったんですか!?」 「……くりくり坊主の雪ちゃんも可愛いかも?」  ちょっと考え込んだ晃と斎が、顔を見合わせて吹き出した。 「ダメだこの人たち……」 「あんだと?」 「ナンデモナイデス!!――」 ***  晃は渋々ながらも雪夜の髪型を夏樹とお揃いにしてくれた。  まぁ、お揃いと言っても、髪質や量が違うので、何となく雪夜の方がエアリーで、襟足も長めのストレートマッシュウルフヘア。どちらかと言うと、中性的な髪型になった。  最初は前髪を分けていなかったのだが、雪夜が夏樹の髪と見比べて、ここがちょっと違う!と晃に前髪を指差して、センターパートにしてもらった。    っていうか、雪夜たぶん、俺とお揃いにしたかったのって、ただ前髪をセンターパ―トにしたかったってことだったんじゃ……?  だって抱っこしてるから前しか見てないよね?    と思ったが、兄さん連中がお揃いにしてもらえなくて悔しがっていたので黙っていた。 「お、いいねぇ。よく似合ってる」 「雪ちゃんか~わいい!」 「!!」  夏樹と並んで撮った写真を見せて貰って、雪夜が満足そうにパチパチと拍手をした。   「気に入ったか?それは良かった。次は晃さんとお揃いにしような~?」 「何言ってんだ、次は俺だろ?」 「兄さん方、次俺ですよ」 「ナツ?物事には順番があるだろ?ちゃんと俺に譲りなさい!」 「いや、選ぶのは雪夜ですし!!――」  ワイワイ言いながらも、ケープを外して髪を集めて掃除機をかける。  何だかんだ言いながら兄さん連中も掃除を手伝ってくれるし、何気に手際がいいので、あっという間に片付け終わった。   「よし、それじゃあ晃さん、晩飯を……あ、向こうに浩二さんたちも来てるんでしたっけ?」 「あぁ、あいつらも呼ぶ?あ~でも、いきなり増えるのはさすがに無理か?」  晃がチラッと雪夜を見る。  雪夜に会うのは久々だったので一応晃なりに雪夜の反応を心配していたようだ。 「ん~……まぁ、今の勢いなら大丈夫な気もするけどな」  斎が言うように、今は雪夜も機嫌がいいので大丈夫な気がする。 「雪夜、浩二さん覚えてる?よくシュークリームを持って来てくれた人。会ってみる?」  鏡で自分の髪型をチェックしていた雪夜が、ちょっと小首を傾げる。 「裕也さんも来てるってさ。せっかくだから、俺とお揃いの髪型になったよって見せてあげようか!」 「!!」  よほどお揃いが嬉しかったのか、雪夜がうんうんと頷いた。 「んじゃ、呼んでくるわ」 「はーい」  晃が呼びに行っている間に、晩飯の用意をする。  二人増えるのは聞いていなかったが、まぁ、そういうことはよくあることなので常に多めに作っているため、特に問題はない。  余れば次の日に食べればいいだけだ。   *** 「雪ちゃん、久しぶり~!浩二さん覚えてるか~?わかるかな~?」 「……?」  怯えることはなかったものの、やってきた浩二が手ぶらなのを見て、雪夜が目に見えてがっかりした顔をした。 「え、何で?雪ちゃん、それどういう顔?」 「あ~……すみません、さっき浩二さんの説明するのに『シュークリームくれた人』って説明したからかも……」 「……なるほど。雪ちゃんごめんな~!?次来る時には美味しいシュークリーム持ってくるからな!?」 「……」 「(浩二さん、雪夜の髪型褒めてやって!)」  まだ雪夜がしょんぼりしていたので、夏樹は浩二に小声でアドバイスをした。 「お?おお、雪ちゃん髪切ったんだな!よく似合ってるぞ?」 「っ!?……っ!!」 「ん?ナツがどうしたんだ?」  夏樹と自分を交互に指差す雪夜に、浩二が戸惑う。 「俺とお揃いの髪型にしてもらったんですよ。ね~!」 「ぁん?お前とお揃い!?ちょっと雪ちゃん、何で俺とお揃いじゃねぇの!?」  なんで浩二さんまでお揃いにこだわってんですか…… 「……?」 「あ、ごめんごめん、そんな顔しないで~?そかそか、ナツとお揃いにしたのか~!良かったな!」 「っ!!」  髪型を褒められて雪夜が嬉しそうに頷いた。 「雪ちゃん、次は浩二さんとお揃いにしような~?」 「おい、コージ。俺らが先約」 「ほ~?先約って誰が決めたんだ?」  浩二が晃たちに向かって指をポキポキと鳴らした。 「あ゛?あんだよ、やんのか?」 「おまえのはダメだろ。雪ちゃんにはそんなおっさんヘアまだ早すぎるって」 「おっさんヘア言うな!!――」 「はい、前失礼しま~す!」  夏樹は、一触即発の三人の前に晩飯を並べ、 「ごゆっくり~」  と言うと、若干眠たそうな雪夜に歯磨きをさせて、抱っこしてソファーに座った。    何はともあれ、無事に散髪出来たし、晃さんと浩二さんにも会うことが出来たので、ちょっと前進の一日だった。 「お疲れ様、雪夜!」   ***

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