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夜明けの星 6-16(夏樹)
部屋の中は雪夜が風邪を引かないように、半袖でも大丈夫なくらい暖房がガンガンに効いている。
隆 が、このままでは雪ダルマがすぐに解けてしまうから、と洗面器に雪を詰め込んで持って来てくれたので、その上に雪ダルマを置いた。
雪夜は洗面器をダイニングテーブルに置くと、その前で頬杖をつきながら雪ダルマを興味津々に眺めたり、ツンツンと触ったりして楽しんでいた。
そんな雪夜を邪魔しないように隆と浩二がそっと向かい側に座る。
二人は雪夜の真似をして頬杖をつくと、雪ダルマと雪夜を見比べながら目尻を下げた。
雪ダルマを囲むおっさ……もとい、お兄さんたちと雪夜の組み合わせに、夏樹は斎と顔を見合わせて苦笑した。
「気に入ったみたいだな」
「そうですね……」
「なぁ、ナツ。雪ちゃん、外に出してみないか?」
「え?」
雪夜の様子を眺めていた斎が、目線は雪夜に向けたまま夏樹に話しかけてきた。
「山の中ってことがわかれば、雪ちゃんがパニックになるかもしれないけど、今朝は一面真っ白だ。たぶん、3歳の頃の雪ちゃんはこんなにいっぱいの雪なんて見たことないだろうし、どこもかしこも真っ白だから山の中って気がつかないんじゃないか?」
「なるほど……」
だいたい毎朝テラスでストレッチをするので、夏樹も今朝の外の状態は知っている。
たぶん、この冬では一番積もっていると思う。
時期的には遅めの大雪だが、まぁ、たまにあることだ。
斎の言うように、あれだけ真っ白だと山の中だということはわからないかもしれない。
「ここに来てもう7か月だろ?たまには違う刺激がないとな。それにこんな機会滅多にねぇぞ?――」
斎の言いたいことはわかる。
外に出すとすれば、今だ。
雪夜も頑張って少しずつ前進しているけれど、記憶の整理がどれくらい進んでいるのか、整理することで雪夜の記憶が戻るのか、トラウマがどうなっていくのか……実のところ工藤たちにも何もわからない。
ただ、3歳の頃の雪夜を知っている人間からすれば、雪夜が他人と触れ合えて、意思疎通ができて、ちゃんと人間らしい生活を送れていることがもう奇跡だと……
そんな状態なので、夏樹としてはまだ大きなストレスは与えたくないのだが、そうすると、ここが山の中である以上、雪夜が以前のように外に出られるようになるのはまだしばらくかかるだろう――
「……まぁ、もし具合が悪くなったら、すぐに中に入ればいいんだし。……と、俺は思ったんだが、お前はどう思う?」
「そうですね……雪夜も雪に興味を持ったみたいですし、俺も一面の雪景色を見せてあげたいです!外……行ってみますか!あ、それじゃ、もっと服着せないと!……雪夜、ちょっとおいで~」
「……?」
「あのね、雪夜も自分で雪ダルマ作ってみたくない?」
「っ!!」
雪夜がうんうんと頷いた。
「だよね~!じゃあ~……作りに行こうか!」
「っ!!」
「はい、そ~の~ま~え~に!服着替えるよ!その恰好じゃ寒い!お外は寒いから温かくしておかないとね!」
夏樹は、雪ダルマを作ると聞いて喜んで部屋から出て行こうとした雪夜を摑まえると、寝室に連れて行った。
雪夜に外を見せないように気を付けてはいたが、別に強制的に閉じ込めていたわけではない。
今までは雪夜自身、外を怖がって部屋から出ようとしなかったのだ。
雪夜が自分から外に出て行こうとしたのは、退院してから初めてかもしれない。
意欲的になったのはいいけれど、雪夜はこの冬初めて外に出るのだから、厚着させないと……気温差だけで風邪を引いてしまう!
夏樹は、雪夜に厚着をさせて、マフラーをぐるぐるに巻き付けた。
「ははは、可愛いダルマ見~つけた!」
「いいな~、これなら解けねぇし、ちょっと部屋に飾っておきたいな。うち来るか~?」
「雪ちゃん、それ動けるのか?歩ける?……何かお相撲さんみたいだな」
「……ん?ちょ、あ、兄さんたちズルい!待って、俺も!!」
夏樹が自分の用意をしている隙に、浩二たちが雪夜の撮影会を始めたので、夏樹も慌てて雪夜のもこもこダルマ姿を撮った。
うん、確かにこのまま飾っておきたい……!
***
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