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夜明けの星 6-18(夏樹)
思いっきり雪遊びをした後は、みんなで雪を落としあって中に入り、風呂に直行した。
兄さん連中は娯楽棟の二階にある大浴場に入った。
そこは一部ガラス張りで移りゆく山の景色を楽しめるようになっている。
だが、雪夜はまだ利用したことがない。
お風呂に入るのを怖がっている現状では、大浴場はハードルが高いからだ。
そのため、雪夜は夏樹と一緒に一階の風呂に入った。
「~~~っ!!」
雪遊びのおかげでテンションが上がっていたせいか、珍しく機嫌よくお風呂に入った雪夜だったが、お湯に浸かると慌てて浴槽から飛び出そうとした。
「ちょっ!危ないよ!どうしたの!?」
夏樹が逃げようとする雪夜を摑まえると、雪夜はパニクって夏樹にお湯をバシャバシャかけてきた。
「わっぷ!こらこら、やめなさい!なぁに?あぁ、熱いの?大丈夫だよ!熱く感じるのは身体が冷えてるからだってば!」
「っ!!」
「落ち着いて!ほら、他の部分は熱くないでしょ?熱いのは指先と足だけでしょ?」
「……?」
夏樹は、雪夜が暴れられないように背後から抱きしめて手を握った。
熱さに慣れたのか、ちょっと落ち着いてくると、雪夜が不思議そうに自分の手を眺めた。
冬に風呂で手足が熱く感じるのなんて当たり前だと思ってたから、そんなに気にしたことなかったな……
雪夜と一緒に自分の手を眺めてちょっと苦笑した。
「指先だけ熱くてジンジンするよね。でも温まってきたら、もう熱くないでしょ?」
「っ!」
さっきまでパニクっていたことなどすっかり忘れて、驚いた顔で夏樹を見て来る雪夜に、思わず頬が緩む。
「うん、不思議だね~!」
「ネ~!」
「……えっ!?」
「……?」
雪夜の「ネ~!」に驚いて思わず大きい声を出してしまったせいで、雪夜が驚いて首を傾げた。
「あ、ごめんごめん。何でもないよ。驚かせちゃってごめんね」
「?」
「あ~えっと、そろそろ出る?あんまり長く入ってるとのぼせちゃうね」
慌てて誤魔化して、風呂から上がった。
***
「お、雪ちゃんも出たのか~」
「髪乾かしてやろうか?」
兄さん連中が下りてきて、さっそく雪夜にかまい始めた。
夏樹は自分が持っていたドライヤーを晃に渡すと、兄さん連中の分もお茶を入れた。
「斎さん、さっきお風呂に入ってる時に雪夜が「ネ~!」って言いましたよ」
「ん?」
お茶を配り終えて斎の隣に行くと、雪夜に聞こえないようにコッソリ話しかけた。
お風呂での様子を話すと、斎も驚いていた。
「そっか、自然に発声できるようになってきたってことかな」
「そうなんですかね?」
意識が戻ってからは、雪夜は無理やり喉から絞り出すようなキィキィと言う金切り声のような叫び声を出していた。
退院前に、夏樹と会えなくなると勘違いをして「ヤダ」と言ったが、あの時も喉から無理やり出していた。
ところが、先ほど雪遊びの時にクスクス笑っていた声は、ひとつも苦しそうな様子はなく、自然に出た声だった。
バスルームで聞いた「ネ~!」も、たった一言だが、自然な声だった。
「自然に発声出来るようになってきたら、他の言葉も出て来るかもな。もともと雪ちゃんは普通に喋れてたんだし、今喋れないのは精神的な理由からだろ?だったら、ストッパーが外れればまた普通に喋れるはずなんだ」
「……また普通に……」
「まぁ、あんまり焦るな。本人は無意識に出した声だろうし、あんまり意識するとまた出せなくなるかもしれないからな」
「はい」
また普通に話せるようになる……
夏樹は、晃に髪を乾かしてもらっている雪夜に視線を移して、ふっと微笑んだ――……
***
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