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夜明けの星 6-22(夏樹)
「……つきさん」
「……ん~?」
「なつきさん?」
「なぁに?どしたの?」
名前を呼ばれて、寝惚け眼で返事をした。
自分を覗き込んでくる雪夜に微笑んで軽く口付ける。
「おいで、怖い夢見た?大丈夫だよ、大丈夫。ちゃんと傍にいるからね……」
抱きしめて背中をトントンと撫でながら、自分もそのまままた眠りに落ちた――
***
「――……え?」
まどろみから徐々に脳が覚醒してきた夏樹は、ふと我に返った。
あれ?さっき雪夜……俺の名前呼んだ!?
「雪夜っ……!!」
慌てて起き上がろうとして、自分の胸元に雪夜がひっついて寝ていることに気がついた。
ゆっくり息を吐きながら、また横になる。
なんだ……夢か……
やけにリアルだったな~……
夏樹を呼ぶ雪夜の声が、まだ耳に残っている気がした。
今朝はうなされていたわけじゃない……ってことは、いい夢を見てたってことかな~……
あ~……もうちょっと寝てたらその先も……くっそぉ!惜しいことした!!
雪夜を起こさないように手を伸ばして携帯を取る。
なんだ、まだ10時か……ん?……じゅっ!?
「……10時っ!?」
ヤバい、寝坊した!!
雪夜を抱きしめたままガバッと起き上がる。
「お~?起きたか」
「え?斎さん!?どうしたんですか?」
夏樹の声が聞こえたのか、斎が部屋に入って来た。
リビングにいたらしい。
「雪ちゃんに呼ばれたから来たんだよ」
「雪夜に?え、どういう……」
「朝方、お前が熱出したから助けて~って雪ちゃんからメールが来て、んで優しい斎さんが看病に来てやったんだよ。あぁ、雪ちゃんは朝の薬ちゃんと飲んでるからな。お前も薬飲んどけ」
「ちょちょちょっと待って下さい……情報量が多すぎる!!え、俺が熱を出して?雪夜がどうしたって!?」
夏樹は空いている方の手で、軽く混乱する頭を抱えた。
斎がさも当たり前のことのようにサラッと口にしたけれど、よくよく考えるとツッコミどころしかない。
あれ?これまだ夢の中?
「だから、雪ちゃんからメールが来たんだよ」
「それっ!!メールってどういうことですか!?だって、雪夜は携帯持ってない……」
雪夜が昏睡状態になって二ヶ月程過ぎたあたりで、裕也にデータを全部取り出してもらって一度解約したのだ。
「うん、だからお前の携帯から」
「ええ!?」
自分の携帯を見ると、たしかに斎宛てにメールが送られていた。
メールは2通。
『なつあつい』
『なつお凸ネタバレ』
「……え、これ?」
「そそ。上手に打ってるだろ?俺も寝起きだったから、ちょっと解読に時間かかったけどな。『お凸』とか『ネタバレ』って何だよって笑ったけど、予測変換か何か触ったんだろうな」
「あぁ……『おでこ』ってことか。っていうか、雪夜いつの間にメールの使い方なんて……」
もちろん、夏樹は教えていない。
「俺が教えた。ひらがなの読み書きが出来るようになったんだから、メールも出来るだろって思ってな。まぁ、何かあった時のために覚えておいて損はねぇだろ?実際役に立ったし」
「そりゃそうですけど……え、ズルい!!俺も雪夜とメールのやり取りしたい!!」
「お前は常に一緒にいるじゃねぇか!」
「え~……」
常に一緒にいるからメールも電話も必要ないが、夏樹じゃなくて斎とメールのやり取りをしていることにちょっと嫉妬 ……
「んん゛、それで斎さんがここに来た時、雪夜は……?」
「ん~?あぁ、雪ちゃんならオロオロしてたぞ――」
斎が様子を見に来ると、泣きそうな顔をした雪夜が携帯を握りしめたまま、寝ている夏樹の頭をひたすら撫でていたらしい。
斎が「大丈夫、いつもの疲れからくる発熱だろうから、ぐっすり寝たらすぐに良くなるよ」と言うと、ようやく落ち着いたらしい。
「あ、雪夜、ちゃんと薬飲めましたか?」
「おぅ、上手に飲んだぞ?」
夏樹の代わりに斎が雪夜の薬とジュースを用意してくれたらしいのだが、雪夜は全然ぐずることなく、ジュースもなしで自分で頑張って飲んだらしい。
え、何それ。いつも俺が飲ませようとしたらなかなか飲んでくれないのに……
斎さんが用意してくれたら、ジュースもなしで自分で飲めるの~!?
「まぁ、その後にちゃんとジュース飲んだけどな。んで、リビングに連れて行こうとしたんだけど、お前の傍から離れようとしなくてな。まぁ、風邪じゃねぇから雪ちゃんにはうつらないだろうし、大丈夫だろうと思って好きにさせてた」
「それでコレですか……」
「爆睡だな」
「ですね」
夏樹が上半身起き上がって斎と話している間も、雪夜は夏樹の胸元にしがみついて爆睡していた。
「まぁ、朝早くから起きて、頑張ってメール打ったから疲れたんだろ」
「そうですね……」
「お前も薬飲んだらもうちょっと寝てろ。雪ちゃんがだいぶ落ち着いて来たから気が抜けたんだろ」
「ふぁ~い」
斎に渡された薬を飲むと、また横になった。
雪夜が頭を撫でてくれてたから、あんな夢を見たのか……?
現在の雪夜は、ひらがな表で会話する時には夏樹のことを『なつ』と呼ぶ。
確実に、兄さん連中の影響だ。
雪夜にならなんと呼ばれようとかまわないが……
――夏樹さん
雪夜のちょっとはにかんだ呼び方が懐かしい。
いつか記憶が戻れば、また以前のように呼んでくれるのかな……?
夏樹は爆睡している雪夜の頭に軽く口付けると、「さっきの夢の続きが見えますように」と念じながら目を閉じた。
***
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